あの日憧れた場所-1
この手をどんなに伸ばしても
届かないものがある
僕はただ観たいだけだった
触れなくてもいい
ただあの場所は
いつになっても僕の憧れさ
昔、映画というものは今ほど簡単に観れるようなものではなかった。小さなフィルムからスクリーンに写し出される映像。決して鮮やかなものではなかったが、その感動にどれだけの少年少女が憧れたのやら…。また見たい、また行きたい。映画館は今でも人々に愛される場所である。
一人の少年がいた…
家はとても貧しくて、食べていくのが精一杯だった。しかし、少年は好奇心と夢は一人一倍あって、よく繁華街にトコトコと出かけていた。
買えるようなものはチリ一つなく、何もかもが高級に見える。それに、少年のボロボロの服を街の人はあざけ笑うような目で見ている。だけど少年はそんな事は気にしない。夢と希望で溢れる街の輝かしさに、常に心奪われているからだ。
今日は初めて街の奥まで歩いた。何やら不思議な建物の方に多くの人が集まっている。少年は、建物の中身が見えないので、どこぞお偉い方の屋敷ではないかと思っていた。しかし、近寄ってみると入り口には華やかな白人の女性の絵や、おかしな顔をした男性の絵が飾ってある。
「こんな大きな絵、表に飾っとったら盗まれるんじゃないか」
少年はとてもこの建物を不思議がって、好奇心を大きく揺さぶられた。そして、帰ってすぐにこの屋敷のことを近所に住む友達に話した。
「なんやそりゃぁ?多分お偉い方の屋敷やなくて、寺やないんか?」
「なしてじゃ?寺なんぞに白人の絵飾っとったら、天皇陛下に首切られるやないけ」
「そうじゃなぁ。やったら、どこぞのアホ貴族のお遊びとしか考えられんのぉ。金持ちはやる事がいちいち派手じゃからのぉ。」
少年はそれだけでは納得がいかず、夕飯の時に父親にも話した。