あの日憧れた場所-2
「なんや、映画館のことけ。おめぇ、そんなトコまで行ったんかぁ。」
「映画館ってなんじゃ?やっぱお偉い方の屋敷なんか?」
「違うがな。ええか、映画館っちゅうのはな、映写機っちゅう機械を使って、白い紙の中で人間を踊らせる場所なんじゃ。」
「な、なんじゃと!!したら、そこの主はもののけかいな!?妖術とちがうんか!?」
「アホいえ!!ただ映写機っちゅう機械で映したものを、神に流しとるだけじゃ。」
「???」
「…とにかく、ンなモンは大枚はたいたって貧乏人のワシらにゃぁ、観れないものじゃけ、そげなトコには連れていかんで。」
そう言われても少年はその映画館という屋敷に魅力されていくばかりだった。
それからというもの、少年は毎日のように映画館の前まで行っては、日が暮れるまで眺めていた。
そんなある日、少年は乾パンをかじりながら映画館の前で座っていると、大柄で真っ黒なコートを着た男が隣りに座ってきた。
「キミ、毎日ここに来ているよね?」
男は優しく話しかけてきた。
「うん。映画館ってヤツを見に来とる」
「ほぉ、映画館を…。じゃあ、キミはひょっとして映画観たことがないんじゃないかな?」
少年は顔を赤くして、コクリとうなずいた。
「ははは、やっぱりそうか。よし、おじさんが今夜特別に映画館の中を見せてあげるから、夜中家を抜け出しておいで。」
男がそう言うと、少年は両手を挙げて驚いた。
「ほ、ホントなんかぁ!?え、映画タダで観せてくれるんかいな!?」
「もちろん。ただし、一回だけだからね。」
「うん!やったぁ!映画が観れるんじゃあ!やったぁ!映画映画ぁ!」
少年はまるで夢を見ているかのごとく飛び跳ねながら家に帰った。