僕の中の剣道と言う名のすべて-4
陰干しをしておいた防具類を纏め、防具袋に隙間無く詰める。一番上に畳んだ胴着と袴を入れ、ギュッと口紐を結ぶ。
ずしりと重たい防具袋を背負い、幾分軽くなった竹刀袋を肩に掛け、僕は歩き出す。
一歩、一歩、歩く度に後ろ髪を引かれる思いだが、僕は無言を貫いて歩く。
しん、と静まり返った我が家を背に、僕は振り返る事無く歩く。
先程流れた雫はとうに乾き、頬を伝ったであろう雫の軌跡がひんやりと冷たい。
瞳の奥は熱さが溢れ、鼻の奥は水を吸い込んでしまった様な、ツンとした痛みが響きあっていた。
顎を引け
弱音を吐くな
お前は剣士だ
休む事無く、馬鹿で一途な親父の台詞が頭をよぎる。
自分は大して強くなかったくせに。
いつも威張り散らして。我が物顔で。
それでいて
それでいて
不意に吹く秋風に、僕は頬を伝っていた雫に気付く。
仕方無く諦めた僕は、立ち止まってゆっくりと振り返った。
秋空に彩られた景色の中で、真っ白な造花が綺麗な円形に並んでいる。朝日をうけて、花を縁取る銀色の輪が辺りを濁らせる。
ふわり、と風に舞う黒い布。表面に張られた白い紙。墨字で書かれた文字が揺れる。
いや、揺れているのは雫のせいだろう。
(……親父…)
僕は天を見つめて雫を振り払う。
勝たなければならない
誰の為でも無く
自分の為に
背中を押してくれる、あの皺だらけの手はもう無いが。
僕は向かう。
親父との最期は
この試合の後だ。
僕は意地でも剣を振らなくてはいけない。
(あんただって言ってただろ?)
僕は、剣士だってな
だから、そこら辺で高見の見物でもしていてくれよ。
帰ってきたら、写真の隣りにトロフィーでも飾ってやるからよ。
FIN