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僕の中の剣道と言う名のすべて
【スポーツ その他小説】

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僕の中の剣道と言う名のすべて-3

 お前の甘い所は何でも小さく纏まろうとする所だ
 対峙した時、お前は真っ直ぐぶつかって行った事はあるか?
 小手先で濁らせて、点数さえ上回ればそれで良いなんて考えているんだろ
 だからいつまで経ったって、お前は一位になれないんだ
 自分に芯が入っていない奴は所詮二位が限界なんだよ


僕はぶるぶると制止出来ない剣先を見詰め、自分の不甲斐なさを思う。
何度もヴォンと大気を切るが、手応えは全く無い。
掴んでいる左の掌より、左腕の方が痛みを放っている。

仕方無く、僕は右手を柄に添えた。
左手より拳一つ開けた上が右手の定位置だ。
脚にも神経を巡らし、構えの足位置を踏み直す。
両手で木刀を構えると、そこにいる筈の無い誰かを睨まなくては居られなくなる。


 顎を引け
 歯を食いしばれ
 何度も言わせるな
 自分の身体に一本の芯が入っていると思え


振りかぶって、切る。両腕がぴんっと伸び、木刀は右腕の延長線上に制止する。
また振りかぶる。
半円を描く様に剣先が頭上を通り抜ける。
制止する時に柄を両手で絞る様に力を入れる。
全ての動作はほんの一秒にも満たない。だけど、この一秒が六十回で一分になり、三千六百回で一時間になり、八万六千四百回で一日になる。
一年ともなれば三千百五十三万六千回だ。
(馬鹿だよ。あんたはこんなにも勿体無い人生を送ってしまったんだぜ)
こんなに剣を振れるんだ。今の時代は木刀や竹刀が限界だけれど。

痺れる左手に、不覚にもぽたりと雫が伝う。

身体の中の熱はとうに逃げ、秋めいた冷たい空気が耳元を通り抜ける。

僕は構えを解き、木刀を竹刀袋に戻した。そして、そこから竹刀を一本引きずり出す。
くたびれた竹刀。
中結い(なかゆい)の前後の竹は、削り過ぎてえぐれているし、柄はいつも握る部分だけ黒くなっていた。
剣先の先革(さきがわ)も黒っぽく毛羽立っている。
軽くて仕方が無い竹刀は、いつも使っている竹刀より十センチは小さい。
もう使う事は無い、小学生だった自分の竹刀だ。
鍔(つば)も何も付けていない、ただ真っ直ぐに姿勢を正した竹刀。
三尺六寸。当時の自分には大きい代物だったが………
僕は庭先の木蓮の木の隣りに、三尺六寸の、その竹刀を立てた。
スニーカーで土を掘り、三尺六寸の竹刀をぐりぐりと土に埋め込ませる。
丁度良い事に、朝露を多く吸った庭土は柔らかく、中結いが隠れる程度まで埋める事が出来た。
ぐっぐっと柄に圧力を掛け、土から生えた竹刀が倒れない事を確認すると、僕は木蓮に「頼んだよ」と声を掛け、幹を軽く叩いた。
木蓮の返事は毛頭無いが、青い葉が風を受けて笑った様に感じた。


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