わたしと幽霊 -声--3
――なんだかなぁ…
やっぱ機嫌悪そう。
今しがた、いつにも増して仏頂面の高谷さんを前に、あたしはベッドに腰掛けて、夢の一部始終を話し終わったところだった。
うぁ…細かい描写も話したせいか、なんか痛みがぶり返してきたような気がする。
でも表に出したら気にするかもしんないから、あたしは涼しい顔をしてた。
まぁ…気にしないだろーけど。
「何、苦笑いしてるんだ」
「べ…別にっ」
うー…どうやったら機嫌なおすかなぁ。
だって気まずいし。
「しかし服毒とはな…」
そう。あの感じは毒を盛って死んだんだろう、という結論となった。
…でも。
「高谷さん、もう分かってるよね」
あたしは胸を弾ませて言った。
「生きてるよ彼女。きっと、生きてる!」
だって言ってたもの、夢の中で。
『アナタダケイカナイデ』…と。
きっと彼女はあのまま死なず、生きてるんだよ?
あたしは嬉しくて、嬉しくて。
…だけどなんでだろう。
彼は喜ぶどころか…何の反応もない。
「どしたの?嬉しくないの?」
だって8年間、ずっと想い続けて…
何で黙ってるの、高谷さん??
「知ってる」
「そか、知っ…」
…知ってる!?
えっ、どゆこと?じゃぁ、あなたは何故この世界に留まって…?
「だって、彼女との最期の記憶を取り戻すために……あ」
呟いたあたしは、はた、と気付いた。
そっか…『記憶を取り戻す』だけであって、彼女の生死には、
彼は始めから触れてはいなかった。
図書館で怒ってたのも、そのせい?
生きてるなら、もしかしたら本人の望まない過去を掘り起こす事になるかもしれないから?
きっかけは、最初の夢の断片を見た時。
勝手にあたしが勘違いした。
…ただ、それだけ。
「別に勘違いを誘う気はなかったんだが…はっきり言わなかった俺が悪い」
「ううん、高谷さんが悪いんじゃないよ。でも…」
でも…なんか歯切れが悪い、変な感じ。
高谷さんのこの様子だと、もう知ってるんだ、全部。
その後の彼女の8年も。
――全部。
知らないのは、自分の死に様だけ。
……………。
そんなの…
知ってて…
きっと見守ってて…
あとは…残したものは、自分の最期の記憶、だけだなんて…
それって…そんな事って…
なんだろう。
…悲しいよ。
でも悲しんでいいのかな。
高谷さんが望んだことなのに。
あたしが勝手に悲しんでいいの?