悪魔のお食事〜褐色の淫魔〜-1
ある屋敷のある部屋。
百年近く閉じられていた部屋の中に変化が訪れた………
ゴトリ………
何もない部屋の中にただ一つ置かれた棺桶が動いた。
ゴトリ………
微かに音を立てて、微かに蓋がずれる。
それがやがて隙間が出来て、ついには蓋が外れて暗い部屋の中に棺桶の中から一人の女性が立ち上がる。
褐色の肌とそれがよく分かる露出度の高い、裸に近い服。
黒髪の間から覗く、山羊のような短い二本の角。
彼女の名はヨウヤチネ。
長い眠りから目覚めた淫魔であった。
凛とした表情とまだいくらか眠そうな目。
『お腹が空いたわ………』
彼女はそう呟くと窓辺に歩んでいき、カーテンを一気に開けた。
夜空には満月が輝く、良い夜だ。
窓を開いてテラスに進み、深呼吸をすると、彼女の背中から漆黒の翼が姿を現した。
『ウェザとの約束だから、ここの子には手が出せないわね。』
ふぅ、と小さい溜め息を吐いた後、翼を羽ばたかせ、彼女は夜空に翔び立った。
『御休みなさい。』
マリアは年老いた修道長に御休みの挨拶をして、自室に入った。
ここは修道院。 今年で21歳になったマリアは神に仕える修道女だ。
13歳の時からこの修道院にやって来た彼女は、一年前にやっと自分の個室を貰えて、大部屋から移っていた。
木で出来たベットと机以外何も無い小さな部屋だが、彼女は満足だった。
この心さえあれば神に仕えることが出来るのだから。
『………アーメン。』
粗末な布の服に着替えて、窓に向かって手を組み神に祈った後、彼女はベットに入った。
その窓の外の夜空にある、獲物を見付けて微笑む淫魔の姿に気付かずに………
マリアが寝苦しさを覚えたのはそれから間もなくであった。
何かに乗しかかられている。 そんな感じの圧迫感を胸から腰辺りに感じる。
ふと目を開けると、マリアの目に見知らぬ女性の姿が写った。
『な、何………!?』
『今晩わ、シスターさん。』
妖艶、な声だった。
『だ、誰? 何故こんな時間に……… ど、退いてください!』
『私はヨウヤチネ、私は夜行性なのよ。』
名前と時間については答えたヨウヤチネだが、以前マリアの上で乗っていた。
両膝がマリアの両腕をしっかりと抑えていて、自分の両腕を自由にしたままマリアの動きを奪っている。
『い、いや、離して………あなた、まさか………』
『そーよ………私は、い・ん・ま♪
お腹が空いたんだぁ、あなたを食べさせて。』
ヨウヤチネの指がマリアの唇をなぞる。
『や、いやぁぁ!! 誰か来てぇ!!!』
淫魔と告げられ必死で手足を動かすがすでにヨウヤチネの完璧な拘束の前には効果を成さず、声を持って助けを呼ぶが叫びは虚しく木霊した。
『誰か………誰かーー!!』
『無駄よ、皆寝てるの………それに夜はお静かに。』
そう言って、マリアの青ざめた唇に自分の唇を重ねるヨウヤチネ。
口を塞がれ、モゴモゴとうめき声を上げていたが突如侵入してきたヨウヤチネの舌に、舌を絡め取られ声すえ失った。