反抗期。-1
手を伸ばせば届く距離の二人。
本当はその手を握り締めたかったんだ。
時は全てを高速で組み立てていく。
ベルトコンベアーに流されていく加工製品のように。
時が彼を大人にした。
彼は自分が何者なのかを認識しだした。
そこに葛藤が生まれる。
今までの導かれて切り拓かれてきた道に違和感を感じ始めた。
周りの視線ばかり気にしだし、自分の声やおれの声は届かなくなっていった。
最初からこの日が来ることはわかっていた。
ぶつかり合わなきゃ分かりあえないことも。
小さな彼の震える背中を眺めながらおれは彼を釣りに誘い出した。
最初は拒んでいた彼もおれのしつこい説得にしぶしぶつき従って、二人車に乗り込んだ。
張り詰めた空気。
車内に会話はない。
おれは取り繕うように話題を切り出した。
「学校はどうだ?」
ぶっきらぼうに彼は返す。
「別に普通。」
取り繕ってきたのはいつからだろう。
装う必要性などなかったのではないのか。
少し後悔した。
「釣りに行くなんて久しぶりだな。前はおまえあんなおっきな鮎釣ったっけなぁ。」
と意味もなく笑顔でふる。
釣り堀について竿二本と固形粘土状の餌、バケツを借りた。
針に餌を付ける。
「父ちゃんが付けてやろうか?」
「いいよ。自分でできるから。」
こないだは竿を握るのも初めて、釣りも同じくだった彼も一人前な自分で準備をするという。
少し過保護すぎたかなぁと後悔した。
彼の成長が見れたことがうれしかった。
彼とおれは池に糸を垂らす。
二人は水面を見つめた。
「おいっ勝負しようぜ!
おまえが勝ったら帰りになんか買ってやるよ。」
彼は無言で釣り糸を垂らす。
初めて釣りに行った時は、釣れた魚を恐がって触れなかったっけなぁ。
ボンヤリと思い出していた。
おれも釣り糸を垂らす。
この池は彼の未来だ。
できることなら大物を、
そして幸せの種をたくさん釣り上げてほしい。
そんな空想に浸って彼を眺めていた。
そうしている間にも
彼の浮きがピクンと浮き沈みしだした。
おれはくっと堪えて自分で気付くのを待った。
自分の力で釣らせたかった。
だから目だけは訴えかけたが、言葉にはしなかった。おれの方を向いてない彼がそれに気付くことはなかった。