光の風 〈封縛篇〉後編-6
「千羅!」
後から瑛琳の声がした。結界に包んだナルを瑛琳の水の魔法で浮かせ運んできたらしい。傍には紅奈の姿があった。
「千羅、ナルを連れてきたわ!そっちは!?」
「ダメだ。占者ナル、何か解りますか?」
結界から解き放たれ、ナルは地に足をつけた。もちろん、さりげなく紅奈がサポートをする。ナルの表情は厳しかった。
「あまりにも結界が厚くて…私にはちゃんと見ることができないわ。」
期待していた答えが貰えなかった事に千羅と瑛琳は肩を落とした。その瞬間、人影が入り口付近に現れた。それと同時に水しぶきも見える。
「ヴィアルアイ!!!」
玲蘭華の攻撃によって入り口付近まで飛ばされたヴィアルアイの姿にその場にいた者全てが注目していた。
「千羅、今の魔法まさか!」
「玲蘭華…っ!」
力の強い者だけが入ることのできる結界の中に役者が揃っていた。嫌な予感がする。
『頭の中で警戒音が鳴るんだ。』
あの時カルサが言っていた警戒音の意味をもっと深く慎重に読み取っていれば、この最悪の事態を免れたかもしれない。後悔だけがどうしようもなく後から押し寄せてくる。
確実に事態は最悪な方向へとベクトルを進めている気がした。玲蘭華がいて、あのカルサがおとなしくこの場を任せる訳がない。なのにカルサの力の気配を感じない、ということは?
「くそっ!」
「千羅、機会は必ず訪れる。その一瞬を逃さずに突き進みなさい。今の私に解るのはそれだけだわ。」
ナルの言葉に千羅と瑛琳は自ら平常心を取り戻し頷いた。黙って結界の向こうへ意識を集中する。
一瞬たりとも気を緩めてはいけない。突破口が必ず開かれる。二人はジンロを信じてその時を待つしかなかった。
「うちには状況がサッパリ理解でけへんけど…ナルさえ守っとればええんやね?ナル。」
「ええ。ありがとう、紅奈。」
ナルにほほ笑み、紅奈は千羅と瑛琳、二人の行動に意識を向けた。自分が結界を見ていてもタイミングが解らない。二人の動いた瞬間がスタートなのだと紅奈は判断をした。
どれくらい経っただろう。
とてつもなく巨大な力が結界の中で放出された。光が穴の空いた壁から勢い良く溢れる。その力は空間さえも曲げる力。
それを押さえろといわんばかりに、また一つ巨大な力が放出された。大きな力がぶつかり合い、その反動で城がゆれる。