《魔王のウツワ・9》-2
「…名前で呼んで下さいって…言ったのに…」
姫野じゃなくて、澪にしては珍しく不貞腐れた様に呟いた…
「すまない…」
「じゃあ…許します…けど…あ、あの…一つだけ…お願いが…」
顔を上げた澪は赤く、大きな瞳は潤んで…すごく…可愛かった。
「…あ、あの…き、キス…して…く、下さい…」
「……………はい!?」
此所でか!?た、確かに人影は見当たらないが…そ、それでも…
「嫌ならいいです…」
腕を離すとプイッと唇を尖らせ、澪はそっぽを向いた。
「………」
そんな姿も可愛いな…
そう思いながら澪の肩に手を置いて振り向かせ…
「………」
ゆっくりと唇を重ねた…
見ている奴は多分いないだろう…
「鬱輪さん…」
「澪…」
唇を離して、見つめあった…澪の瞳に俺が映り、その俺の瞳にまた澪が映る…まるで、合せ鏡の様な幻想的な状況。
「い、行こう…」
「は、はい…」
澪の小さな手を握った。それを澪も握り返す。
幸せとはこういうものなのかもしれない…
細やかであっても、小さなことであっても…
好きな奴が隣りにいて、笑ってくれる…
それに癒され、暖かくなり、守りたいと思うもの…
それが幸せ…
恋愛経験に乏しい俺に言えるのはこれくらいかもしれないが…
俺は少なくともそう思っている…
この笑顔、幸せがあるから頑張れる。
さあ、今日もいい日になりそうだ!
《魔王のウツワ》…完。