《魔王のウツワ・8》-1
不安は虚無感に変わり…
焦りは喪失感に変わった…
失ったものは大きく、新たに得ることもないだろう…
※※※
あの日以来、俺は授業以外の時間は校舎の隅で過ごすようになった…
校舎の外壁と鬱蒼と茂る木々が俺の姿を隠す。
そんな場所で何をするわけでもなく、ただ時間を潰していた…
好きだったはずの本も最近は読んでいない。手に取ってすらいない。あの笑顔を思い出すから…
「………」
消えてしまいたかった…
「………」
何もかもが辛かった…
──キーンコーン…
昼休みを告げる鐘が鳴り響く。その音は何処か遠い世界のことの様に感じた…
「四限…さぼっちまったか…」
でも、まあいい…どうだっていい…
どうせ、出席したところで内容が頭に入るはずないのだから…
手の中で携帯が震えた。画面を見ることなく操作、そして削除。
相手は分かっている…
面倒臭いからこの際着信拒否に設定しようか…
でも、それすら面倒臭い…
※※※
結局…今日は午前中、しかも一限から三限しか出なかった。
もう少ししたら帰ろう…
そう考えていた矢先に…
「何や!こんな所で小さなっとたんかい!」
嫌になるくらい明るい声。悩みなどない様なニヤニヤ顔。
「そんな、如何にもめんどい奴が現れよったァ…みたいな顔せんでもええやん。それにしても、自分ええ場所見つけたなァ!わいも今度さぼる時は此所来よかな…」
七之丞はキョロキョロと周囲を見回しながら言った。
「…ブルーなオーラが出まくってるで自分、ブルー魔王やん。直訳すると青い魔王♪
…………何か格好ええな、専用機みたいで」
「何の用だ…」
七之丞は煙草とマッチを取り出した。慣れた手つきで煙草に火を着けると口に咥えた。
「ヒメが心配しとるで」
紫煙を少しだけ吸った七之丞はすっぱりと、気持ちいいくらいに言い放った。