《魔王のウツワ・8》-9
「お、おい…」
「コレ、な〜んや♪」
七之丞はそう言うと、右手の親指と人差し指で小さな箱を取り出した。
「………!!」
それが何であるか気付いた時、男達の表情がさらに凍り付いた。
「答えは…ゆーまでもないやろ♪」
その小さなマッチ箱からマッチを取り出すと、赤い先を箱の側面に押し当てる。
「じ、冗談も…いい加減に…」
「冗談?わいが冗談でこないなことするとでも?」
男達は先程畳に空いた細長い傷を見た。明らかな殺意が具現化されている。
「や、やめろ…やめて…」
命乞い。けれど、マッチは軽快な音と共に燃えだした。
「BYE−BYE♪」
七之丞の手から無情にもマッチが落ちた。足下の導火線に引火…
しなかった。
「阿呆ゥ、誰が殺すか、ボケェ。最後はただの水や。自分らの命なんぞ安過ぎて買いとうないわ♪」
しかし、その罵りに誰一人として答えない。全員が気絶していた。
「うわァ…ここまで効くとは…流石のわいも予想外やわ…」
中には白目を剥き、口から泡を吹いている者もいた。
「プッ♪それにしても、ブサイクなツラやなァ♪傑作や、傑作♪そやそや、写真撮っとこ♪」
パシャパシャというシャッター音と七之丞の笑い声が虚空で響いていた。
※※※
完全に世界を夜が支配した。その中を二人で歩いていく。
「…大丈夫ですか?」
「ああ…大丈夫だ…」
額の傷は浅く、血はすぐに止まった。
「ありがとう…姫野…」
「いえ…」
暗闇の中、赤く色付いた頬が僅かな街灯に照らされていた。
「なあ…本当に…俺と一緒にいてくれるのか?」
「はい…私は鬱輪さんが好きですから…」
「いろいろ…他の奴からも言われるぞ…」
姫野は立ち止まった。俺も足を止めると姫野は俺に向き直った。
「鬱輪さん…」
姫野が近付く…
俺の服を掴み、精一杯背伸びをして………
「!?」
「これが…答えです…」
姫野は恥ずかしそうに俯いた。だがその声からは、はっきりとした強い意思を感じた…