《魔王のウツワ・8》-6
──ガッ!
「ッ!?」
こめかみに鈍い衝撃が伝わった。一瞬だけ視界に入った男の手には、角材が握られていた。思わぬ攻撃に、気が遠くなり、地面が近付く…
───ドンッ!
右足を思いっきり地面に叩き付け、倒れそうな身体を持ち直す。
「ぐ…ッ…」
ガンガンと頭が揺れる。瞼の上の辺りから暖かなものが流れ出しているのを感じる。
「ッ…るああぁぁああ!!」
狂った様に叫び、振り返りながら拳を振るう。手の甲が相手を捕らえ、そのまま吹き飛ばす。
角材が乾いた音を響かせ、男と共に倒れた。残り…1!
「はぁ…はぁ…」
身体はこんなに重かっただろうか?
額から滴る血が口許を濡らす。それを舌で軽く拭い、残った一人に目を向ける…
「佐久間…竜二…」
「く、来るな…」
佐久間が怯えながら後退った。足を前に出し、少しずつ間合いを詰めていく。
「や、やめろ…」
「…煩い…」
ドンッと乾いた音がして、佐久間の身体が道場の壁に当たった。
「や、やめ…」
胸倉を掴み、頬を全力で殴った。佐久間の瞳が変な方向を向き、そのままズルズルと倒れた。
「はぁ…はぁ…ッ…」
全身が痛い…
そんな身体を引きずりながら部室へと向かった。
一度、手で血を拭い、姫野の身体を抱え上げる。
多分、無いとは思うが、万が一アイツ等が起き上がってもいいように部室を後にする。
「ッ…すま…ない…姫野…外に出たらそれ…剥すからもう少し我慢してくれ…」
姫野は震えながらも、コクリと頷いた。
※※※
道場の外に出た。辺りは少し暗くなってきていた。薄暗い闇と緋色の光が入り交じり、黄昏を生む…
姫野を下ろすと、その身体を拘束するガムテープをゆっくりと剥がした。
「大丈夫…か…?」
姫野の大きな瞳からは涙が溢れ、その小さな身体は小刻みに先程までの恐怖に震えていた。
「…ッ…」
姫野のそんな表情に思わず下唇を噛んだ。
こんなことになるまで何もしなかった自分への怒りと、姫野への罪悪感で胸が押し潰されそうだ…