《魔王のウツワ・8》-2
「………」
「毎日、毎日、屋上来て鐘が鳴るまで自分が来るんを待っとる」
「…もう…俺は屋上には行かない」
「ったく…強情な奴やなァ…もちっと素直になれや」
もう一度煙を吸うと、フッと呆れた様に吐いた。風に乗った煙草独特の匂いが鼻をつく。
「自分、ヒメのこと好きやろ?」
何のためらいもなく、七之丞は言った。
「ちゃうか?」
コイツのこの無遠慮さが気に入らない…
「そうだ…」
だが、そんな性格だからこそ言えるのかもしれない…
「俺は姫野が好きだ」
「なら、ヒメに告白したらどうや?好きなら一緒にいたらええやん」
「…言えるわけないだろ…折角、姫野が周りと溶け込めるようになってきたんだ…俺やお前と一緒にいたら…姫野に迷惑がかかる…アイツは特進だ…進路だってある…
だから…姫野のことを考えたら…これでいい。
それに、姫野には好きな奴がいる…」
胸の奥で黒い獣がのた打ち回る…内側から食い破られそうだ…
「知ってるか?佐久間竜二って奴…ソイツが好きなんだそうだ…」
自らを嘲笑った。そうでもしないと冷静でいられなかった…
「…おいおい…自分ホンマにそれ信じてんのかいな」
七之丞の表情が今までのニヤニヤから心の底からの呆れに変わった。
「…姫野自身がそう言ったんだ…」
本当は認めたくなんかなかった。けれど、認めるしかなかった。
「自分…阿呆やろ」
「ぁあ?」
「ホンマ女心の分からんやっちゃなァ」
風が荒んだ気持ちを乱暴に撫でる。
「わいな、ヒメに告ったことあんねん♪」
「はぁ!?お前…いつの間に…」
何をコイツは…
「見事、玉砕のボロボロやったわ。でな、そん時にヒメから好きな奴も聞いたんや…誰て答えたと思う?」
「…佐久間だろ」
「阿呆ゥ…佐久間ちゅう名前はわいがカマかけた時にゆーたんや、結構有名人やからな。
…まあ…もう一人、名前出したんやけど…でな、ヒメは佐久間のことなんかほとんど知らんかった…てか、もう一人の方が当たり♪わいもこっちやとは思とたけどな♪」
「…心変わりってこともあるだろう…」
「…ヒメがそんな女やと思うか?ええこと教えたるわ…」
勿体ぶる様に煙を口に含むと、わざわざこちらに向けて吹き掛けた。
「佐久間て奴な、表向きええけど、裏やとそーとーエゲツないことしてるらしいで」
「エゲツないこと…?」
「まあ…恐喝、脅し、強請りは当たり前、傷つけた女は数知れず…
自分も聞いたことあるやろ、佐久間龍太郎ちゅう政治屋、佐久間親父や。親父も親父で黒いお金大好き人間。
その親父の真っっ黒い遺伝子バッチリ受け継いでるらしいで。蛙の子は蛙やな♪」
七之丞はせせら笑った。