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きゅっ。
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きゅっ。 〜V〜-2

「今日はどこに行くの?」
「ほんとはどこに行くって決めてないんだ。ただこうやって手繋いで歩きたい。…ダメ?」
「ん。あたしも手繋いでたいって思ってたとこ。」
 ただただふたりで手を繋いで歩く。日常ではこれ程ゆっくりした時間を過ごすことは全くといっていい程無く、新鮮だった。
「こうして歩いてると、このまま時間が止まればいいのにって思っちゃう。」
「そお?俺はもっともっと美咲といろんなこと知っていきたいし、感じていきたい。」
 時間が止まるなんてことは実際天変地異でも起きなければ、起きることは無く…
「うん。そだね。あたしもずっと一緒にいたい。」
 この手の温もりを知ってしまった今、手放すなんてもうできない。
 凌の視界に公園が見えてきた。滑り台と砂場と少し古ぼけたベンチ、子供が数人砂場で遊んでいる。
「すぐそこに公園があるんだ。ちょっと休憩しよっか?」
 歩いている時、美咲はおそらく全神経を集中させているんだろう。通常は視覚や聴覚に神経を研ぎ澄ませていればいいが、美咲はそうはいかない。歩くだけでもかなりの体力を要するはずだ、そう思って休憩を勧める凌。
 公園の中程にベンチがあり、その場所まで美咲を導いていく。
「ここにベンチがあるんだ。座ろう。」
 砂場で遊んでいる子供達が好奇の目でちらちらとふたりを見ている。子供ながらに美咲のただならぬ雰囲気に気をひかれたのだろう。左手に握られた白杖を不思議そうに見ている。
 凌はそんな子供達に苛立ちをおぼえていた。美咲と出会う前の自分にも。
「子供達、あたしを見てる?」
「見てるよ?」
「こっちに呼んでもらってもいい?」
 何を考えてそんなことを言うのかさっぱりわからないまま、凌は子供達に手招きして見せ、こっちに来るように言った。
「なんだよ?」
 3人いたうちの1人が、おそらく中心的な役割を果たしているだろう、少しぽっちゃりとした子供が、来てやったぞ風に聞いた。
「これ、なんだか知ってる?」
「杖。」
 それぐらい知ってる、といった顔をして、少しおとなしそうな子供が言った。
「そぉ。杖。でもこれはお姉さんの目なの。」
 女の子は言った。美咲の目を指差して。
「お姉さんの目あるよ?なんでそれが目なの?」
「お姉さんはね、目が見えないの。だからこの杖が、お姉さんの目の代わりなの。だからこの杖を持って歩いてる人がいたら、ほんの少しでいいから道をあけてあげてね。」
「「「は〜〜い。」」」
 声を揃えて返事する子供達。その3人を笑顔で、手を振りながら見送った美咲の横顔を見ながら、凌は聞いた。
「美咲ってすごいよな。」
「そんなことないよ。少しでもあたしのような人のことを理解してくれる人がいたら、みんなが住みよい街になるでしょう?ちょっとの気遣いがすっごぉぉく嬉しい時もあるの。」
 これまで体験してきたほんのささいな出来事の数々を凌に話し
「あたし達も理解してもらう為には、世の中にもっとあたし達のことを伝えていかなきゃ、理解してもらえるものも理解してもらえないでしょう?」
 そう話している間も、美咲の目は、はしゃぐ子供達に向けられていた。
「子供…好きなんだね?」
「うん。大好き。」
 その顔を覗くと、どこか遠い場所をさまよっているかのようにも見えた。
「産んで育てる。大変なのはよくわかってるの。目が…見えない。それでも、あたしも産んでみたい。自己満足でしかないのかもしれない。産まれてくる子は…もしかしたら迷惑かもしれない。」
 ぽつり、ぽつりと言葉をつむんでいく美咲に、凌はただただ耳を傾けるだけだった。自分の腑甲斐なさを呪いながら…。


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