「ボクとアニキの家庭の事情・3」-1
「・・・・・バカ」
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはアニキだった。
「あのヒトは」
一瞬口ごもった後
「ただの、現場っつーか、会社関係のヒトだよ」何故か少し言いにくそうにして言う。
「・・・・・現場の、請負会社んトコの娘サン」
「・・・・・マジで?」
若干鼻声になっているのが自分でも判る。
「マジ」
「ホントのホント?」
「んだよ・・・・・珍しく疑り深いな」
苦笑いしながらアニキが言う。
「だって、なんかすげー言いづらそうなんだもん、アニキ・・・・・」
「・・・・・家ん中まで、シゴトのコト持ち込みたくなかったんだよ」
困ったような顔をしたまま、そう話す。
「・・・・・納得したか?」
また再び一瞬の間が開き、その間をアニキの声が破る。
「・・・・・完全じゃないケド、した」
「ん。いー子。で・・・・・そろそろコレ解いてくんね?」
アニキがそう言うと、ギシッとベッドの音がして、今更ながらに手首の紐のコトを思い出す。
「・・・・・うん」
正直今、ボクの頭はパニック寸前だった。
勘違い(?)で、実のアニキを未遂とはいえレイプしたコトもそうだし、逆にこの事で見捨てられてもおかしくはない、むしろこんな危ない弟と一緒に暮らすなんて、普通なら・・・・・そんな事を考えながら、まるで夢遊病者の様に紐を解いていく。
「・・・・・ごめんなさい、アニキ」
紐を解き終わり、そのまま下を向きながら謝る。返事はない。
少し間を置いて身体を起こす音、そして頭の近くで気配がした。
━殴られる━
そう思い、思わず身体を緊張させる。
するとカチッ、と音がして部屋の電気が点く。そして驚いて上を見上げたボクの頭を、その掌は優しく撫でた。
「ぇ」
「ったく・・・・・ホント、バカだよお前は」
そう言いながらアニキの顔は笑っていた。
「・・・・・昔っからそーだもんな。可愛い顔しながらすっげー気ぃ強いの。思い込み激しいし。でもにーちゃんにーちゃんっつーてテコテコ着いてきて・・・・・変わってないのな」
微笑みを浮かべ、ボクの頭を撫でながらアニキが優しく言う。
━泣きそうになるくらい、切なくて、でもやり切れないくらい哀しかった
今のボクは、そんな無邪気だった頃とは違って、遥かに汚れてるから━
━チュッ
再び目を瞑り、頭を撫でられながら固まっていたボクの口唇に柔らかい感触が当たる。
(・・・・・ぇ?)
思わず目を開けると、すぐ前にアニキの顔があった。
━クスッ
「そんなバカな紅、大好きだよ」
アニキはそう言うとボクを少し強く抱きしめた。
「・・・・・チュッ。大好き、アニキ」
半分限界だったボクは、泣きながら、そして笑顔でそう言った。