《魔王のウツワ・7》-1
いつもと変わらぬ一日のはずだった。
いつも通りに進むはずだった。
※※※
朝、少々ボンヤリとする頭でヨミ高の校門をくぐった。
いつもと変わらぬ靴箱にいつもと違う人だかり。
「何だ…アレ?」
多少は気になったが、どっかのバカとは違い、俺は野次馬根性旺盛ではない。そのため、さっさと教室へと向かったのだが…
「おっ、鬱輪ァ♪」
背後の人だかりの中心部から声がする…
こんな風に俺の名前を呼ぶ奴は良くも悪くも一人だけ…
「こっちや、こっち!お、おい!ちょっ…何処行くねん?待たんかい!何、自分無視してん?大変やぞ、ヒメが!」
姫野…?
踵を返し、俺の名前ですっかり静かになった人だかりに向け、歩を進める。
「すまない、ちょっと通してくれ」
人だかりがモーゼの十戒の如く割れた。その割れた人の海を渡り、辿り着いた先には…
「お、おはようございます…」
「──!!」
姫野だった。だが、かなり長かった黒髪は肩の辺りで綺麗に切り揃えられ、顔全体がはっきりと分かる。
「そ、それは…」
何故、姫野が髪を切ったのか、思い当たる節はただ一つ…
「もしかして…俺が…」
「は、はい…鬱輪さんが…その…ああ言ってくれましたから…」
姫野は紅くなりながら答えた。
『ああ』=俺の『可愛い』発言…
「何や…訳ありか?」
ボソッと七之丞が耳打ちした。
「…少し黙ってろ」
「何や…今日も機嫌悪いんかいな。みんなァ、大変やぞ!魔王の機嫌が最悪やァ♪早う逃げんと殴り殺されるでェ♪」
その発言に睨みをきかせるとギャラリーは蜘蛛の子を散らす様に逃げていき、後には俺と姫野と七之丞が残った。
「ええ感じに人払いが出来たやんけ♪」
「そうだな…残りはお前だけだな…」
ギリギリ…と拳を握り締める。
「ま、待たんかいな!わいは自分の事を思てやな…」
「ああ…お前のせいで気分は最悪だ…このままだと本気で撲殺死体が一つ出来そうだ…」
七之丞は引きつった笑みを浮かべ…
「せ、せやな…後は若いもん同士ちゅうことで…ほなな!」
自分の教室に向かって一目散に駆けていった。