《魔王のウツワ・7》-2
「………」
「………」
どうしたらいいのだ?
とりあえず、人払いとバカ払いは出来たが…
「……やっぱり…変…ですよね…」
姫野は俯いたまま、小さな声で言った。
「いや!何処も変じゃない、似合ってるし…その…なんだ…可愛いと思う…」
周りに人がいないからこそ言える台詞…
「…あ、ありがとう…ございます…」
姫野が顔を上げることはなかった。
「…気にするな。みんな姫野に見とれてるだけだから…」
「そ、そうでしょうか…」
「ああ…そろそろ…始業時間だぞ…」
「……はい…失礼します…また…お昼に…」
姫野の去っていく後ろ姿を眺めていた。短くなったが、綺麗な艶のある黒髪が揺れる。
可愛くなった姫野を見て…何だか…言い知れぬ不安が胸の奥で渦巻いた…
※※※
昼になった。姫野はまだ屋上に来ていない。ノワールも俺の家にいるので、今屋上にいるのは俺と七之丞の二人だけだ。
「自分がヒメに髪切れゆーたんやろ?」
七之丞は煙草を口に咥えたまま言った。先端から立ち上ぼる紫煙が風に舞い、次々にその姿を変えていく。
「…ああ…」
「ヒメも健気やなァ♪」
姫野のいない屋上はいつもよりも風が強く、茫漠とした不安はじわじわと広がっていく…
「遅いなァ、ヒメ…自分ちょいと見てきた方がええんとちゃう?」
「…そうだな…」
立上がり、扉を開けた。薄暗い階段はさらに心を乱す。
何なんだ…この不安は…?
歩幅は次第に大きくなり、速度も上がる。
俺は何を焦ってるんだ…?
得体の知れない不安が背後から追って来る様だ…
※※※
階段を降りた。とりあえず、姫野の教室のある方へ向かおうとし、廊下の角を曲がった時…
「姫野」
小さな鞄を小脇に抱えてた姫野を見つけた。ただ…その周りには二人の男がいて、姫野に何やら話しかけていたが…
「あっ…鬱輪さん」
姫野がこちらに気付いた。同時に男達も気付き、その表情が凍り付いた。
『や、やっぱり…また今度な…』
最後にそんなことを言って男達は去っていった。
「すみません…遅くなって…」
「…どうしたんだ?」
「あ、あの…いろんな人に…お昼ご飯の…誘いを…」
さっきの二人もそういうことなんだろう…
でも…気に食わない…今まで姫野のことなんか知ろうともしなかったくせに…