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言葉に出来ない分
【悲恋 恋愛小説】

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言葉に出来ない分<プロローグ>-1

言葉に出来ない分、心の中で何度も繰り返す。
好きだ。好きだよ。
目が合うと何も考えられなくなるから、彼女が背を向けている隙に。
苦しくて張り裂けそうな想いを、何度も何度も。

「ただし、私のこと、好きにならないでね」
上谷は僕にキスをした後、そう付け足した。
僕は数秒前に起こった出来事を、混乱する頭で必死に思い返した。
確かに、彼女は僕を好きだと言った。そして、続けた告白に、僕は承諾した。彼女に特別な想いがあったわけではないが、彼女は容姿も綺麗だし、性格もサバサバしていて付き合いやすいし、まぁいいかな、と。
とにかく、間違いなく、僕と彼女は恋人関係になったはずだった。なのに、この状況とは、一体どういうことなのだろう。
「意味わかんないんだけど」
「私、好かれるのダメなの。追われると逃げたくなっちゃう。必要以上に優しくするのもやめてね。冷めちゃうから」
「何だよ、それ」
「別にいいでしょ?そもそも、私が橘を好きになったのって、恋愛に本気になったりしなそうな感じに惹かれたからだし」
彼女は淡々とことを説明し、僕の答えを待った。しかし、僕が口を開きかけると、
「今さらやめるとか無理だから」
と、ワントーン低い声で遮られてしまった。
僕が恋愛に本気になれないとゆうのは本当だった。今まで何人かの女の子と付き合ってきたが、どの恋にも熱くなれず、その温度差が原因で早々と別れが訪れた。そのうち僕は恋愛に対して投げやりになり、恋人をただの性的興味の対象としてしか見られなくなってしまったのだった。
考えてみれば、もともと上谷を好きになれる可能性は低いし、多くを求められないのは面倒が無くて良いかもしれない。
「わかった」
僕は静かに答えた。すると、彼女は口の端を上げ、僕の右手を握った。
「超好き」
彼女は指を絡ませながら、そう微笑んだ。首を傾げ、覗き込むように僕を見つめる。
「よろしくね」
「…ああ」
僕は何かに疼きだした胸に、気付かない振りをしていた。
あの時、本当は、切ない予感が迫っていたのに。


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