『you』-2
「あ、来た。」
さすが、100m11秒台前半。足だけは速い男。
「きり、騎里っ!おはよっ!!」
80mちょいを全力で走ったくらいじゃ、息切れなんてしないのね。
「……!」
通り行く人、みんなが見てる。毎朝の事とは言え、恥ずかしい。
「ゆーち、おはよぉ!」
「キョン!おっす!!」
「また遅刻ギリだぞ、お前。早く上行こうぜ。」
そう言って、キョンとさびろーは階段の方へ向かった。
「うわっ、待って待って!ちょっ…」
2人に置いてかれ、下駄箱の前であたふたしているソイツを見つめる。
「………。」
「騎里…?」
どうした?と、アタシを見つめるソイツは、確かにかっこいい。
「早く。履いて、行こ。」
真っ黒で、ちゃんとセットされた髪型も、
「あ、あぁ…って、うん!!」
顎んとこのラインとか、筋張った手とか、
「ゆー…。」
「んっ?」
笑うと左だけに出来るえくぼとか、
「おはよう。」
全部、全部がアタシだけを見てるって思う度、
「おはよっ、騎里!」
………胸が、熱くなる。
――――………
そういや、忘れてた…。
アタシ、王妃 騎里[おうき きり]。
King、Queen、Knightが揃った、珍しい名前を持ってる。
まぁ、お母さんがチェス好きで、その類のパーティで知り合ったお父さんの名字がたまたま『王妃』だった…
っていうだけなんだけどさ。