《魔王のウツワ・6》-3
「…そういや、昨日買い物行くの忘れてた…」
窓の外を見て、嘆息…
「…行くしかねえか…」
手早く濡れた学生服を着替え、財布を持って靴を履く。
「ちょっと買い物行ってくる」
「あいよ〜♪アハハ♪」
バタン…
扉を閉めると、母親のバカ笑いは少しだけ小さくなった。
※※※
近くのスーパーで適当に食材を買い込み、帰路についた。重たいビニール袋が手に食い込む…
角を曲がった。ふと、電柱の下にボンヤリと佇む人影を見つけた。
その影に一瞬、足を止めたが、歩み寄る…
「…寒くないか?姫野」
さしていた傘を佇む姫野の上に掲げた。
「えっ…鬱輪さん!?」
姫野は驚いた様に振り向いた。
綺麗な黒髪は雨に濡れ、白い肌にピッタリと張り付いていた。
その腕の中には同じく、ずぶ濡れのノワールが抱かれている。
「どうしたんだ?なんかあったのか…?」
姫野は俯いて話し始めた。
「ごめんなさい…ノワール…見つかってしまって…」
話によると、雨の為、ノワールを屋内の目立たない所に隠していたのだが、今日は運悪く、見回りの教師に発見されてしまったそうだ。
「それで…もう…学校には連れて行けないし…でも…家…ペット禁止で…私…どうしたらいいか…分からなくて…」
姫野は憔悴しきった様子だった。もしかしたら、頬は雨だけで濡れたわけではないのかもしれない…
「…寒いだろ…」
買い物袋を下に置き、上着を脱いだ。それを姫野の肩にかける。
「う、鬱輪さん…私…びしょ濡れで…」
「それ安物だから…心配するな…」
そうしていると、姫野の腕の中でノワールがもがいた。
ヒョイっと片手でノワールを抱き上げる。
「…良かったら…俺が預かろうか?」
「えっ…い、いいんですか…?」
「ああ…詳しくは知らんが家の大家の婆さんも猫飼ってるみたいだし、昼間は親がいるから世話させる」
姫野はしばし、俺とノワールの顔を見比べ…
「じ、じゃあ…よろしくお願いします。ノワールも鬱輪さんと一緒にいると嬉しそうですから」
姫野は深々と頭を下げた。
そして、顔を上げると姫野は寒そうに自分の身体を震わせた。
そんな様子を見て…
「…姫野…俺ん家…来るか?」
そう言って、自分の発言には問題が山積みであることに気がついた。