H.S.D*1*-2
いい気分で、あたしは自分の席に着くと矢上に体を向けた。
「ねぇ、ねぇ起きてよ。ねぇってば…」
あたしは矢上の体をペンでつつく。
「…ん…?」
小さく呻くと矢上は体をゆっくり起こし軽く欠伸をした。
「なぁに?」
あたしに顔を向け、頬杖を付く。
「あっ、その…」
「んー?」
クスクス笑いながら矢上は首を傾げる。人懐っこい笑顔。
なるほどね、皆がハマる理由が少しだけ分かる。
「あ、あのね、あたしたち文化祭の実行委員になったから…」
あたしは一気に早口で喋った。
「…ふぅん、オレが寝てる間にそんなに話進んでたの…」
矢上の声のトーンが少し下がった。口元からは笑みが消え、あたしに冷たい視線を送ってくる。
「で?」
「で…って…」
矢上の態度が気に入らないので何か言ってやろうと思ったけれど、あたしには出来なかった。矢上の目が冷たくて、鋭くて、居たたまれなくなって、あたしは目を逸らした。こんなこと、今までなかったのに。
ドクンドクンと心臓の音が大きくなる。
「取り敢えず、決まったから…」
床の木目を見ながら、あたしは小さく呟いた。
「そう…よろしくね、音羽ちゃん♪」
声色が明るくなった。
ちらっと矢上の顔を見るといつもの笑顔に戻っていた。だけど、その目はやっぱり笑ってなくて、ギラギラと光っているようですごく恐かった。笑っている口元とは逆に、矢上の瞳は蒼く光って、そこに何が映っているのかあたしにはさっぱり分からなかった。