oneシーン-1
「はぁ…」
一番後ろの席でそっとため息をつく。
こんな気まずい気分なのは私のクラス運の悪さのせいなのだろうか。
そんな私の心の中を知るよしもなく、先生はプリントやら何やらを配り歩く。
春――。
高校最後の年。
まさか今更同じクラスになるとは思っていなかった。八分の一の確率だったのに。
配られるプリントを回す前の席の彼の手。
大きくて男らしい手。
ただ、一度も振り向かない。
私と彼の間だけに気まずさが静かに漂う。
前の席の坂下とは一年のときつき合っていた。二年になって別れ、それからはクラスも端と端だったため顔を合わすことすらほとんどなかった。
喧嘩別れだったため連絡も切ってしまった。
なのに今更……。
そういえば一年のときも同じクラスで、こうやって席が前後だったのがきっかけで付き合い始めたんだっけ。
あの頃よりずっと大きくなった広い背中。
髪も少し茶色くなってかっこよくなった。
一年のときの黒髪でインテリメガネの硬派な感じも好きだったけど、今のあか抜けた爽やかな感じも好き。
こんなことを思うのは半年前に彼氏と別れて寂しいからなのかな。
一度も振り向かず、プリントを回す彼に寂しさを感じるのはただ懐かしさがあるからなのかな。
そんなことをぼーっと考えていると一枚プリントが回ってきていないことに気がついた。
どうしよう…。
勇気を出して声をかけてみた。口をきくのは実に一年ぶり。
「あ、あの…さ」
それだけ言うと、彼は無言でさっとプリントを回してきた。
やっぱり振り向くことなく。
話しかけるなってことなのかな…なんて少しヘコんだ。
すると、パソコンでつくられたプリントの右端に手書きで書かれた文字が目に入った。