光の風 〈封縛篇〉前編-1
ドクン… ドクン…
鼓動が響く。音はそれしか存在しない。何もない世界で見えるのは光。感じるのは水の揺らめきと鼓動だけだった。
ドクン… ドクン…
体に触れるのは水の感覚。この頬を伝うものも水なのだろうか?
何もない世界で孤独を感じる。光と水の戒めの中、風は動く事無く、波紋は生まれない。
夢から覚めたのは朝が近いからだった。ゆっくりとまぶたを開けて、ぼんやりと天井を映した。いつもの景色、変化はない。
耳から音が入ってくるのを感じながら体を起こし窓の外を見た。ベッドから脚をおろし、ほぼ天井までの大きな窓に近づいていく。
レースのカーテンを手でよけて外を見る。目に移るか移らないかのささやかな存在が多く空から注がれていた。薄暗い景色、この霞むような景色は見慣れたものになりつつある。
「また雨か。」
リュナの声が音もしない雨に消し殺される。
もうこの雨は数日も続いていた。
「最初は恵みの雨と民も喜んでいたのですが、こう続くと川の氾濫や土砂災害が心配との声が多く上がっています。」
会議室ではカルサを筆頭に大臣、秘書官、軍隊長などが集まっていた。誰もが険しい顔を隠しきれないでいる。
このシードゥルサに長く降り続ける雨は止むことを知らず、まるで全てを洗い流すかのように注がれていた。それは不吉な予感の表れ。
手元に配られた資料にカルサは目を通していた。地形によっては被害が計り知れないところもある。顔色一つ変えないが、心中はとても険しいことは明白だ。
会議参加者の話し合いの声を聞きながら資料と向き合い対処を頭の中で考えていた。そして誰をどこにあてればうまくいくかも見極めなければいけない。
順番に顔を見ていく、その目は真剣だった。
「陛下、意見を聞かせていただきたい。」
一人の年配大臣が落ち着いた口調で物申した。カルサが彼に視線をあわせる。一同の注目はカルサに集まった。
「西部のラクス、キーク、ダヤマ、ここはすぐにでも非難した方がいい。五番隊長ナタル・ウーリ、おまえに任せる。」
「はっ。では出発します。」
命を受け勢い良くナタルは立ち上がった。外に出ようとする彼にサルスは駆け寄り備品の説明をしながら共に部屋の外に出ていく。