光の風 〈封縛篇〉前編-6
「陛下!」
「分かっている。」
取り巻く野次馬を縫うように進み、その中心へと辿り着く。当事者の男性は近づいてきたカルサに嫌悪感を抱き、文句をつけはじめた。
「何だ、お前は!!」
どよめく民達を後ろにカルサは冷静に対処を始める。
「この国の王、カルサ・トルナスだ。何の騒ぎだ、これは?」
「王だ?王さまってのは、そんな貧相な身なりをしてるのか。」
突然現れた国の当主に男は蔑むことから始めた。まわりの動揺は隠すことができない、高貴な衣裳をまとっていない王は王でないと言い張った男を信じられない目で見る。
「身なりで位が決まるものではない。何の騒ぎかと聞いている。」
当然ひるむ様子もなく、再び同じ質問を繰り返した。初めて自国の王を見るものもいるだろう、しかし大多数の者がカルサを間近で見るのは初めてである。
遠くで見ていると分からないが、改めて見ると若い。幼き日に王位継承して以来、年月を数えてもまだ青年であることは分かるが実感せずにはいられなかった。
こんな若い青年が国王なんだと、本当に大丈夫なのかと不安さえよぎる。
「何もかも不満だ!何でこんな狭い所に何百人と押し込まれなきゃいけない!?窮屈でたまらん!」
「この城に避難してくる国民がいるかぎり、もちろん空間は狭くなる。しかしそれは皆の命を守る為だ、理解してくれ。」
「この仕打ちで守るだなんだ言われても納得できるか!場所は狭い、着替えも食物もない。」
吐き捨てられた言葉は力を持ち、人々の心に響き始めた。一人の代表者が皆に代わり疑問や不満をぶつける、やがて民の思いが一つになる言葉がでてきた。
「だいたい、雷神なんだろう?すごい力を持ってるんなら、この嵐を止めればいいだけじゃないか!」
男が放った言葉は大きく部屋中に響いた。この嵐に不安を抱えている人たちの心に深く入り込む。そうだそうだと小さく囁く声は人数を増すに比例して大きくなる。
「そうだ!なんとかしてくれよ!」
「雷神なんだろう?」
次々とカルサに降り掛かる言葉は多すぎて埋もれてしまいそうなほどだった。部屋にいた、過半数の人間がなんとかしろと叫び続ける。
カルサは黙ったまま目だけで辺りを見回す。焦っているのか、困惑しているのか、まったく変えない表情からは分からなかった。
子供の王に任せられない、若く経験もあまりないから頼りない。様々な避難の声が投げ付けられる。
その場にいた女官達は聞いていられなかった。我が国の王が我が国の民によって蔑まれている、ここまで民を思う王を民は非難ばかりする。
いつまでも沈黙を守るかと思われたが、いくつか放たれた言葉の一つに強い反応を示した。