光の風 〈封縛篇〉前編-4
「嵐…。風よ、どうか願いを聞き入れて。」
せめて風さえ弱まれば幾分かは楽になるはず、両手を広げ全身で風を感じて力を解放させた。
「風よ。」
やがてリュナから解き放たれた力はオーラとなり彼女の身体から滲み始めた。ゆらめくそれらは徐々に大きくなり、一瞬にして空へと駈け昇る。
駈け昇りゆく力と比例して重力がリュナの身体にのしかかり、彼女は胸から押し潰されるように地面との距離を縮め始めた。
重力に耐え俯く表情は決して穏やかなものではない。歯を食い縛り汗が滲む顔には強い意志さえも感じさせるほど目に宿る力が強かった。
(お願い!)
「あああああっ!!」
叫び声と共に最大限に解き放たれた力は空高く雲の中へと吸い込まれていく。一瞬の静けさの後、辺りに光が飛び散り光と共に風は消えていった。
風が止んだのを確認した後、リュナはそのまま地面に倒れた。息が荒く体力を消耗しきった身体に雨は容赦なく降り注ぐ。
風が止めば幾分か救助も避難も捗るに違いない。ただ民の安全を守りたい一心で行動した彼女にとっては安堵と達成感に満ちた時間。
「リュナ!!」
遠退く意識の中で名を呼ばれた気がした。近づいてくる足音は水しぶきをつれて、勢い良く身体を抱き抱えて移動しはじめた。
(また…怒られちゃうかしら…。)
心の中で謝りながらリュナは意識を閉じていった。
「無茶なことをしますね、王妃は。」
「優しくて責任感が強いが故の無茶は、いつか王妃の身を滅ぼしますよ?」
衰弱しきった身体をベッドに寝かせ、世話をするカルサの横で千羅と瑛琳は率直な感想を述べた。ベッドの上の「王妃」は意識はなく、無論彼らの言葉も聞こえてはいない。
「誰が王妃だ!」
恥ずかしさから憎まれ口をたたいてしまうが、もちろん万更でもないのが本心。しかし実際今回のような無茶をまたするようであれば全力で止めなくてはいけない。
未発達の彼女の力では、全身全霊の力の放出は命を落としかねない。だけど何だろう、彼女を見付けた時の幸せそうな表情は。
「こいつなりに民を守ろうとしてくれたんだな。風神として。」
何とも言えない感情からカルサはリュナの手を握る。彼のように手を握ってあげたいのは二人も同じだった。より一層思いは強くなる。後は引き受けたと、千羅たちは嵐の中の現場へと向かっていった。誰もいなくなった後、ふとカルサはリュナの手首につけられた物を見付ける。