光の風 〈封縛篇〉前編-3
二人の身体が濡れているのがわかった。カルサは傍にあったタオルを二人に投げて渡し、すまないと謝った。二人は微笑み、いいえと首を横に振る。
「ナルの占いには何て出てた?」
「雨が止む時期は分からないと。」
瑛琳の報告にため息混じりの納得の声を吐いた。そしてまた考えこむ。
カルサの頭の奥で鳴り響く警戒音はなんだろう。何かが起ころうとしているのだろうか?それとも起きている?
「嫌な予感がする。」
警戒音が頭から離れない。何をしても消える気がしない。ここまで心を乱されるのは初めてだった。感情がすべて顔に出てしまう、その事を本人は気付いていない。
明らかにカルサの態度に違和感を覚えた二人は問わずにはいられなかった。
「皇子、どうかされましたか?」
千羅の問いかけにカルサは黙り込んでしまった。答えようとする気持ちよりも先に警戒音の正体が気になって仕方ない。
瑛琳と千羅は顔を合わせ不思議そうに互いに答えを求めた。彼は一体何を考えているのだろう。
「皇子?」
「あ、あぁ、悪い。」
「どうなさったんですか?険しい顔されてますが。」
カルサは耳に手をあててみた。耳鳴りではない音。
「頭の中で警戒音がなるんだ。」
「警戒音?」
思い過しか、自発的か、はたまた誰かのシグナルか。それはカルサにも決めかねている事だった。一連の流れから考えると無視することはできない。
「分かった、オレたちも気を付けるよ。」
普段表だって出さない警戒心に千羅も気持ちを引き締めずにはいられなかった。頭に響く警戒音はおさまることはない、荒れていく天候と比例して強くなる。
外はもう、嵐だった。
窓をつたう雨は速さを増していく。リュナはしばらくその様子を見ていたかと思うと、クローゼットからマントを取出し部屋から出ていった。
「リュナ様?どちらに行かれるんですか?」
マントを羽織りながら歩く姿を見かけた女官がリュナに問いかける。この嵐の日にマント必要なはずがない、不信感が女官にあった。
「自分の仕事をするだけよ。避難してくる民をお願いね。」
余裕の笑みを見せると女官に手を振りながらリュナはその場から去っていった。残された女官は呟くように了承の声をもらす。
リュナの足取りは早く、目指すものがある意志が見えていた。マントに包まれた体、右手の中にはジンロから受け取った首飾りがある。
階段をのぼり、リュナが目指していた場所、城の中で一番広く見通しのいいバルコニーにつながる扉を開けた。途中まである屋根をぬけて、雨にうたれ手摺りの所まで進んでいった。
頭からかぶっていたマントが風で脱げそうになるのを手で押さえる。荒れ狂う風を感じながら、空を仰いだ。