光の風 〈封縛篇〉前編-2
「これから順に担当を決めていく。意義ある場合は申し出てくれ、対処する。」
カルサはこの言葉を開始として次々に役目を決めていった。任務を確認した者から席を立ち外に出ていく。ひとり、またひとり。足早に会議室を後にしていった。
最後に残ったのは聖だった。遠く離れた席で自分にくるだろう命を待つ。だが、二人だけになってもカルサは聖に命じる気配はなかった。
雨の音が響く、さっきよりも強くなっていることを告げているようだった。資料に向けられていたカルサの視線が聖にあてられる。
「なんや?」
「お前を信頼して任務を与える。」
低く声は響いた。落ち着いたトーンで聖は了承の声を上げる。だいたいの予想はついていた。
「遠征部隊長、黒大寺聖。救助活動を命ずる。」
フルネームで呼ばれた聖は気持ちを引き締め勢い良く返事をした。災害予防ではなく救助活動である事が、任務の危険度を示している。
しかし聖に不満はなかった。それだけの重要な任務を与えられたことに誇りを持ち、受けとめる。
「黒大寺か…久しぶりに言われたな。」
「こくだいじ、発音が難しいな。遠征を命じた時以来に使った。」
聖は微笑んだ。彼の名前でもはや、この国の者でないことが分かる。カルサはふと頭の中に火の力の持ち主が浮かんだ。
結界士と同じ国にその人はいる。
「聖、お前達はどこから来たんだった?」
唐突にカルサは口にしてしまった。話の流れ的には違和感はないが、自分自身で違和感を感じてしまう。
聖はもちろん気にする事無く答えた。
「発音難しいかもしれんな。地球、言うねや。」
「地球…。」
まるで身体の中に溶けこますように繰り返した名前は妙な懐かしさを感じた。どこかで聞いたことあるのか、以前聖から聞いたものを頭の隅で覚えているのか。
そこに火の神はいる。
「あそこも災害が多いとこやった。自業自得な部分も多いけどな。」
そう言うと懐かしい思いを抱きながら外を眺めた。雨が降り続ける景色は、予感を強める。
被害が少ないといい、その思いは届かないかもしれない。確実に止むことのない雨は国全体に不安や恐怖、そして孤独な気持ちも降り注いでいた。
「行くわ。」
「頼む。」
カルサの言葉に手をあげ、聖は会議室から出ていった。ドアの閉まる音が妙に響く。
誰もいなくなった会議室に雨の音が包むように流れてきた。カルサの表情が厳しい。
「千羅、瑛琳。」
その名を口にした瞬間、彼らの姿が現れた。いつもと同じように片膝をつき、忠誠心を見せるかのように跪く。