光の風 〈封縛篇〉前編-16
仕方がないことではあるかもしれない、だがこの瞬間は特に心底自分の存在を呪いたくなる。
(オレさえいなければ、こんな事にはならないのに。)
「カルサ、結界をはりましょう?」
「いや、それより先に皆この部屋から離れろ。人がいれば戦いにくい。」
そう言ったカルサの目は統率者ではなく、一介の戦死としての目だった。力無き者は王座の間から離れてゆく。残ったのは数人の兵士とサルスとリュナだけだった。
手薄な警備がさらに手薄になる、サルスは恐怖感と戦いながら何とか撃退する方法を二手、三手と頭の中でつくりあげていく。
その場での会話はない。皆が皆、入り口を見たまま息を潜めていた。かたく握り締めたリュナの手にはジンロのお守りがある。
ただ、次の動きを待つしかなかった。
「西の会議室っ西の会議室っ!!」
ナタルを目指して、焦る気持ちを走る力に換えて貴未は進んでいた。爆発音が発生した場所がおそらくナタルの居場所。
たった一人の侵入者、赤い目をした術者の男、爆発音、そしてこのタイミング。もやもやする頭の中を一掃しなければ、目の前の事も疎かにしてしまいそうだ。
「ああああああーっ!ちくしょお!!」
すべてを振り切るように更に手を振って走るスピードを速めた。この階段を下って曲がればあとは一直線だ、手摺りを掴みながら下り中間辺りで手摺りを飛び越え階下に着地する。
あとはこの階段を下りきって角を曲がれば!
しかし曲がる瞬間内側に反対方向から来た人物を巻き込みそうになった。
「うあっ!と、すいません!」
時間に余裕がない貴未はその人物を見る暇もなく会議室に向かっていった。
この辺りはもう煙が充満している。服の袖をのばし、そこで口を押さえながら走り進んだ。ぼんやりと人影が見える。
「おい、大丈夫か?」
倒れていた兵士は何の反応も見せない。すでに息絶えていたようだった。辺りを見回して生存者と犯人を確認しようとするが、瓦礫と数人の遺体があるだけだった。
あまりの酷さに、手で口を覆わずにはいられない。吐き気を我慢しながら貴未はナタルの姿を探す。
「ナタル!?」
瓦礫の中に埋もれるようにして彼は倒れていた。しかし貴未は変わり果てた彼の姿に絶句した。
彼の左腕は無くなり、左足も形があるかないかという無残な姿だった。貴未は言葉を無くし、かすかに唇が動いている彼に近づく。