光の風 〈封縛篇〉前編-15
「おい…なんだよ、この傷…何者なんだ?その侵入者。」
「とてつもなく…強い…。オレ達じゃ相手にならなくて、ナタルさんが…。」
「ナタル?」
兵士同士の会話に思わず貴未は口を挟んだ。出ていったまま帰らない彼の名がここに出た事に不安がよぎる。
貴未は兵士のもとに駆け寄り、その目で兵士の傷の具合を見る。それは切り傷のような、まるで何かにえぐられたような。焼けたような跡もある。
「侵入者の数は?その傷、術者の仕業か?!」
「はい。侵入者は…一人、赤い目の男。炎を操る、術者です…っ!」
「場所はどこだ!?」
「西の…会議室のあたりです。」
ナタルは自分の任務を伝える為に副隊長のもとへ向かう途中だった。おそらくその時に遭遇したに違いない。
事態が一変した。
動揺と不安が隠せない。しかしそれ以上に理性が働き、この事態をちゃんと把握しないといけない使命感がうまれた。
「カルサ!侵入者は赤い目をした男一人、術者でかなりの力の持ち主!炎の使い手だ。」
「赤い目…炎の使い手…?」
「ナタルだけじゃ不安だ!オレも行く!」
「頼む。」
カルサが頷いたのを確認すると、負傷した兵士の肩を優しく数回叩き、よく頑張ったと声かけた。救護用品を持った女官に兵士を預け、貴未は走りだす。
サルスも動揺が隠せなかった。この非常事態に重なる非常事態、一体どこの誰がこんな日にしかけてくるんだ。怒りと焦りが混同して、理性が働かない。
「やばいな。」
「ああ、やばいよ。緊急事態だ!嵐の次は侵入者!!これから…」
「ナタルの命が危ない。」
カルサの言葉にサルスはもちろん、そこにいる者すべてが息を飲んだ。先程の兵士の深い傷とナタルでないと手に負えないという言葉から、かなりの強者ということが分かる。
だが、カルサの言葉の本当の意味に気付いたのはリュナだけだった。
「あの爆発音…て事?」
「この状況で爆発音が発生した場所はそこ以外考えられない。ナタルの身に何かあったのかもしれない。」
辺りの空気は一気に凍り付いた。恐怖感が高まり、次第に臆病になっていくのが分かる。
敵の狙いはおそらくカルサ・トルナス、雷神であれ国王であれ間違いなく彼であろう。複数ならば金品強奪もありえるが、単独犯となれば大多数はカルサの命を狙う方だった。