光の風 〈封縛篇〉前編-13
「もしもの話は、後日内容相談致しましょう。ですから今は、もしもの事がないようにお願いします。」
サルスらしい納得の仕方に思わず笑みがこぼれ、カルサは頷いた。
「心強いですわね、陛下。」
「ああ。」
鳴り響く雷の音、止む事のない風と雨、分裂していく大地。すさまじい被害をだすことは間違いない、しかし自然現象なら仕方のないことだった。
そう、自然現象ならいい。まさかとは思うが。そんな考えが当たらない事を祈るばかりだ。
「失礼します。」
王座の間の入り口付近で可愛らしい女性の声が中にいる全員に向けてかけられた。民の部屋で懸命に働いていた女官セーラのものであると、もちろんリュナは瞬時に気付く。
「リュナ様、こちらにいらっしゃったのですね。」
「ごめんなさい、心配かけました。」
「あまりご無理をなさらないようにしてくださいね?陛下、民の部屋が満員になりましたので他の部屋を解放する了承をいただきに参りました。」
リュナとの会話でひとつの心配の解決の糸口を見いだしたあと、意識をカルサに移し、本題をすすめた。まだ若輩である彼女が遣わされたのは、風神の居場所を確認するという兼ねた用件があった為だという事が分かる。
この混乱の最中に余計な心配をかけた事をリュナは自身の中で静かに反省した。
「かまわない。民を最優先で動くようにしろと伝えてくれ。現場判断は女官長フレイクに一任する。」
命を受けたセーラは一礼してその場を去っていった。リュナから民の世話をするような命じられたセーラは名残惜しくも王座の間を後にした。
「リュナ、セーラとしちゃリュナの傍にいたいんじゃないのか?」
「そうね。でもセーラは軍人じゃないもの。私の傍にいるのは危険だわ。」
セーラの姿を見兼ねた貴未が思わず言ってしまった台詞に、意外にもリュナらしくない回答が返ってきた。それは貴未はもちろん、カルサでさえ驚いたくらいだ。
「そんな言葉がでてくるなんて意外だな。前の国では誰かついていたのか?」
「ええ、傭兵が一人。レプリカという女性が常に一緒に居たわ。」
知らなかったリュナの過去にカルサは動揺していた。思えば彼女自身の過去をほとんど知らない。自分が聞かないせいもあるが、彼女が何が好きで今日こんなことがあった等、ある程度自分の事を話してくれるから気にもしなかった。
よくよく考えれば、知らない事だらけなのかもしれない。そんな雑念が入ったが、今はそんな時ではないとカルサは頭を切り替えた。