光の風 〈封縛篇〉前編-12
「陛下のお心のままに。」
その言葉と共にしおらしく下げた頭のリュナの姿に誰もが驚いた。雷神としての言葉だったのだろうか。
何かある、そうに違いないと一瞬にしてその場にいる者に伝わった。
「ったく、面倒臭い国王陛下だよ。」
サルスよりも先に言葉を発し場を和ませたのは貴未だった。ため息混じりに吐いた台詞には諦めよりも信頼の色が濃かった。
思わずカルサも笑みがこぼれる、こうなる事を分かっていた。貴未が一番に認める事も分かっていた。
「笑ってんじゃねぇよ。いいか、今からのオレの役割はオレが決める。」
何もかも分かられていた事をすねる様にカルサにつっかかり、人差し指で指しながらすごんでみせた。
「なんだ?」
「連絡係だ。ここを拠点に指示を伝達する。」
すごんだまま突き付けられた宣言にカルサは言葉を失ってしまった。つまりは貴未がここに残り、もしもにならないように傍を離れないという事になる。
「ナタルさん!ここに残ってもらえますか?」
突如話をふられたナタルは頭の整理がつかないまま、疑問符だけを投げ返した。
「オレがいない時もあります、ナタルさんの力が必要なんです。」
向けられた真剣な眼差しに流されそうになったが、実際問題彼には抱えている部隊があった。救助という任務が最優先に自分の中にある。それに貴未が納得できたような、もしもの話の判断材料を持ち合わせているわけではない。
何かが起こり得るという事がぼんやりとしか分からない。そんな自分が傍にいていいのかと、様々な思考が頭の中で交差する。
「私が遠征部隊の指揮もとり聖を戻した方が適策だと思う。」
自分よりも何かしらでコンタクトをとる、聖の方が信頼性、状況把握も長けているであろう。しかし。
「でもそれは現状、とても困難なことだ。私では幾分劣る所もあるが…最前を尽くす。」
副隊長に状況説明と指示を伝える為にナタルは一度その場から離れる事になった。予想もしていなかった状況。
いきなりの展開の速さに、さすがのカルサもきょとんとした表情が隠せなかった。
「なんだよ、そんな顔して。文句は言わせねぇからな?」
「文句は私が言いたいところだ!」
全てから取り残されていた秘書官がついに言葉を挟める状態になった。もちろん、ご機嫌はよろしいわけがない。
突然、国王代理と命じられ、個々に役割分担を変更され、状況が一気に変わってしまった。しかも目の前で口を挟む隙もなく。
「いつもいつも、目の前で好き勝手に!」
サルスの怒りはもっともなだけに、その場に居た者は苦笑いするしかなかった。しかし、実際問題、今回の事じゃなくても保険をかけておいたほうがいいというのは感じていた。