光の風 〈封縛篇〉前編-11
「馬鹿野郎が…っ!」
言いたいことが山ほどあるし、ぐちゃぐちゃになった感情をなんとかしたいけど時間がない。貴未はたった一言に怒りももどかしさも全て込めて、次の行動に移った。
「サルス、聖は!?」
「救助部隊を率いている。紅奈は占者ナルの所だ。」
分かり切っていたけど、どうしようもない事態に焦る気持ちが高まってくる。自分には指命があるように他の者にも任務があるのは百も承知だ。
「リュナ様!」
遠くで大きな物音と叫び声が聞こえた。反射的に貴未は動きだし、また幾人の兵士も同じ行動をしていた。
カルサは大きく深呼吸をして、体を楽にさせようとしていた。一回、二回、最後の深呼吸で顔を上げ背筋を伸ばす。
「陛下、それ以上力を使われても…。」
「ああ、無駄だな。まるで無意味だ。」
サルスの言葉に同意し、嵐を止めるために使っていた力を止めた。大きく体にきていた負担が一気になくなり軽くなる。
「陛下。」
リュナはゆっくりと部屋の中に入り、カルサだけを見ながら足を進めていた。横で貴未がいざという時の為に位置している。
「寝ていなくていいのか?」
「もし、この嵐が意図的になされたものだったら…。私と陛下は近くに居た方が適策だと思いますので。」
リュナの言葉には含むところがあった。もしも意図的だったなら、それはフェスラの事件を始めとする太古の因縁絡みであるという事。立ち向かうには一人でも多い方がいい。
おそらく千羅も瑛琳も救助の為に軍人に化けていないであろう事は予想が付いていた。
「適策か、そうだな。皆、いいか?」
カルサは地図に目を向け、その場にいる者全てに伝わるように少し声をはった。
「この先、私にもしもの事あれば、秘書官サルスパペルト・ウ゛ィッジを国王代理とし従う事とする。」
流れるようにさらりと出された宣言に誰もが動揺を隠す事ができなかった。もちろん、貴未もリュナもサルスでさえも予想だにしない突然の宣言に抗議の言葉も詰まってしまう。
「陛下、もしもの事などと…今仰られる意味が分かりません。陛下さえご無理をなさらなければ、そんな。」
「そうだ、何も今言う事じゃないだろ。」
サルスも貴未もカルサの言葉にタイミングが分からず、周りの者への不安と動揺が広がる事だけを案じて認めるのにとまどいを示した。
ただリュナだけは、太古の因縁を知る彼女だけは黙ったままカルサを見つめ自分の中で答えを探す。もしもを示す意味は自分が考えるものと同じならば。