宛先のない手紙-1
彼が死んだと聞かされた時、ドラマみたいにショックで携帯を落とすこともなかったし、涙が出ることもなかった。
その次の日の夜、町内の斎場で彼の葬儀が執り行われた時も泣くことはなかった。
涙は流したけれど、それは場の雰囲気に勝手に出てきた涙だった。
親しい人が死んだというのに、どうして私は泣けないのだろう。私はこんなに冷たい人間だっただろうか。
周りの人達が泣いている中、無表情で涙だけ流している私の様子はひどく奇妙なものだったに違いない。
彼が白い骨だけになり、
小さな壷に納められ、
冷たい石の下に眠らされた時も、
彼はまだ生きているのではないか。
そう思う私がいた。
四十九日が終わっても、私は相変わらず泣けずにいた。この七週間、私はどのように過ごしてきたのだろう。
友人達が気を使ってくれた。週末になると私を遊びに誘ってくれた。
だけど気を使ってもらう必要なんかなくって。
だって私はまだ、悲しむことさえ出来ていなかったのだから。
最近は、友人達も進んで私を誘うことはしなくなった。だからこんな風に考える時間が多くなってしまったのだろう。
気分転換でもしようとCDを漁る。だけど、気分に合った物が無い。
そう言えば、彼にCDを貸したままだった。
四十九日も過ぎたし、これから取りに行ってもいいだろう。そう考えて、彼が死んでから初めて、彼の部屋を訪れた。
彼の両親は、まだその部屋を片付けずにいてくれた。カーテンの無い窓から差し込む光は、最後に見た時のままの部屋を照らした。
開け放たれた窓から、軟らかい風が吹き込んだ。彼の部屋の匂いが少しホコリっぽくなったのを感じ、少しだけ寂しさを覚えた時、カタっという小さな音がベッドの辺りから聞こえた。
白い枠の写真立て。
拾い上げてみると、そこには彼と私の笑顔が在った。
小さな思い出を抱き締める。ホコリっぽくなった部屋が、写真の中の彼の笑顔が、彼はもう何処にもいないと言っているようで。現実を否定するように、抱き締めた。
どれくらい経ったのだろう。
漸く落ち着いたので、写真立てを離す。その時、小さな何かが、写真立ての縁から飛び出しているのを見つけた。
写真立てを開けて、それを取り出してみる。
それは真っ白な封筒だった。開けてみると、中には便箋が一枚。