宛先のない手紙-2
――この手紙が読まれているということは、僕はもうこの世界にいないのでしょう。
ありきたりな書き始めでごめんね。
さて、この手紙を書いている今現在の僕の命は、もうそんなに長くないそうです。
何度か君との約束を守れなかった事もあったけど、それは全部、軟弱なこの体が悲鳴を上げていたから。なので怨むなら、僕じゃなくてこの体を怨んでやって下さい。
そういえば、君が貸してくれたCD。あの中の曲の一節に、自分のことは忘れてくれ、みたいな歌詩があったのを覚えてますか?
僕はそんな事を言うつもりは更々ありません。
かと言って、忘れるなとも言いません。
君のことだから、いつか自分の中で区切りを付けるのでしょう。
だから僕の意見を押し付けるようなことはしたくありません。
さて、これから一番伝えたい事を書こうと思います。
泣かないで下さい。
優しい君は、この手紙を読めば恐らく泣くでしょう。
それが僅かな間だとしても、僕を思って悲しむのでしょう。
泣かないでとか言いながら、こんなものを書いている、この矛盾。
まあそれは僕の我が儘だとでも思って諦めて下さい。
僕は君の笑った顔が好きです。
なんか照れますね。
でも本当に大好きなんです。もう僕には見ることが出来なくても、君にはずっと笑っていてほしいのです。
だからこの手紙に宛先は書きません。君に送ることもありません。
短かったけれど、そろそろ泣きそうになってきたので、ここらへんで筆を置きたいと思います。
また来世で、なんて陳腐な言葉で終わらせないのは、僕の数少ない長所の一つだと思って下さい。
最後に一つ、
幸せになって。
それじゃまたね――
私は泣いた。
彼が死んだと聞かされたあの日から、初めて泣いた。
ホコリっぽくなった部屋と、彼の手紙に、初めて彼が死んだという現実を受け入れられた。
彼の笑顔と宛先のない手紙を抱き締めて、私は泣き続けた。
ねえ。泣かないでって言ってたけど、今だけは許してくれるかな?
end