わたしと幽霊-1
それは何の変哲もない、お昼休みの昼食時だった。
「…………」
あたしは、飲み込みかけていたミートボールをあやうく喉に詰まらせそうになる。
「まただよ…」
「どしたの、朱美」
げっそりと呟いたあたしを、親友の木崎 亜子がきょとんと見てる。
「ううん、独り言っ!」
あたしは〈それ〉から目を逸らし、亜子に笑顔を返した。
あたしの名前は、柚木 朱美。
ごく普通の、青春真っ盛りの高校一年生。
でもそんなあたしにも、たった一つだけ、長年の悩みがあって――
(ご飯食べてる時は勘弁してよぉ…)
あたしは泣きそうになりながら、お弁当を無理矢理胃に流し込んだ。
――亜子には見えていないモノ。
しかしあたしにだけ見えてるモノ。
教室の、黒板脇にいきなり現われた――
あたしが見たものは、学制服姿の幽霊だった。
自分でもホトホト嫌になってるんだけど…
正直、もう慣れちゃって、幽霊が見えても恐くも何ともないんだよね。
そしていつも、ひとまず初日はスルーしてる。
見ないように、視界に入れないようにしてる。
だから、今日は気付かないフリして、放課後を迎えた後は真っすぐ家に帰った。
明日になったら、居なくなってくれてればいいな、なんて祈りながら――
…――翌日。
念のため後ろの扉から教室に入ったあたしは、横目で黒板の脇を見る。
うわ〜ん…まだ居たよ…
昨日と同じ姿勢で、椅子はないのに座った姿勢で脚を組み、ぼんやりと窓の外を見てる男の子の幽霊。
ココの制服を着てるから、在校中に自殺した生徒…とかかな?
じっと感覚を研ぎ澄まして、目ではなく心で彼の姿を見つめる。
嫌な感じはない。
怨恨がらみの地縛霊じゃないみたいなので、ひとまず胸を撫で下ろした。
地縛霊だったらあたしの手に負えないもん。
過去に色々恐い目にあったんだよね…
まぁ、それは置いといて。
まだ、あたしに彼の姿が見えていることを、多分彼に気付かれてないハズ。
「朱美、おはよっ」
亜子の、愛玩犬みたいに可愛らしい声を聞いてはっとする。
「おはよっ」
あたしもニコッと笑い、亜子の後ろの席に座った。
「何か昨日から具合悪そぅだよ?大丈夫!?」
亜子がくるくるした瞳であたしの顔を覗き込む。
「漫画の読みすぎかなぁ…夜更かししちゃって」
あたしはエヘヘ、と誤魔化し笑いを浮かべながらも、親友の気遣いに感謝する。