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わたしと幽霊
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わたしと幽霊-3

『建校記念日の午前12時。あなたとのあの場所に私は居ます。
あなたには生きていて欲しいけれど、きっと来てしまうのでしょうね』


女性の名前の部分は滲んでいてよく見えない。
いや、そんな事どうでもいいよ。
(あなたはこれから…
死にに行くのね…)
あたしの胸には、最期まで見届けなきゃならないという漠然とした思いがあった。
きっと…あたしの方から入り込んでしまったのだから。

やがて、彼の脚がある処へと向かい進む。
こつ、こつ、と、無人の校内に靴音が響き――
やがて屋上へと繋がった。
たしか屋上の鍵は閉まってるはず…
しかし鍵はかかっていなかった。
そっか…
この日から、閉鎖されることになったんだ。

重い金属音を軋ませて開いた扉の先には、薄いベージュのスーツ姿の若い女性。
あたしには伝わる。
女性は教師で、彼と許されない恋に落ち――
二人で、永遠に一緒になろうとしているのだと。

ダメだよ…
あたしには二人の深い事情なんて知らない。
でも、何で死ななきゃならないの?
生きてれば何だってできるんだよ?
生きてないと何にもできないんだから!

あたしは――過ぎた過去に叫んだってしょうがないのに…
それでも二人に死を選んでほしくなくて――
声にならない想いを振り絞ってた。
じわじわと熱い涙が込み上げてくる。

耳鳴りがする。
視界が少しずつ、白くぼやけてくる。
若い女教師の――
彼女の穏やかな眼差しを見つめながら、彼の彼女への暖かい心を感じながら
ゆっくりと意識が落ちていくのをあたし自身は気付かないまま――…

「ダメぇぇぇっ!!」
叫んだあたしは、自分の声の大きさに驚いて跳ね起きた。
肩で息をし…喉と目の奥に鈍い痛みを感じながら、茫然とする。
「そーかー、この数式では駄目か、柚木〜」
あたしに向けられる先生の……あれ?
「え゛………あはっ」
半眼で私を睨んでいる教師とバッチシ目が合った。
あたしは引きつった笑いを浮かべ――
「あとで職員室な」
「はぃ……」
数学の授業中に大きな声で飛び起きた恥ずかしさに俯くしかなかった…
前の席の亜子がバツの悪そうな、あちゃ〜っていう表情で振り返り、あたしの肩をポンポン、と叩いてくれた。
…夢、だったかぁぁ…。
あたしはヘナヘナと力が抜けた笑みを返す。
それにしても――今でも情景をはっきりと思い出せるほどリアルな夢だったなぁ。
まだ胸がバクバクいってる。
ちらり、と、黒板の横の彼を見る。
あのとき窓ガラスに映った、凛とした眼差しのままで…
彼はまだ窓の外の空を眺めていた。


――放課後。
あの夢を見てから数時間後。
あたしは用もないのに一人で教室に残っていた。


「手伝おっか?」
放課後の始まりの頃。
亜子が反省文を書く私を気遣ってくれたけど、
「大丈夫〜もぅちょいかかりそうだから先に帰っててね。ありがとっ」
感謝しながら亜子に手を振る。
早く一人になりたかったから。
本当は反省文なんてとっくに終わってた。


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