わたしと幽霊-2
――フン。
（………？）
気のせいか…あたしの耳元で、鼻で嘲笑するような音が聞こえた気がした。
あたしは目だけで辺りを見回す。
〈彼〉の声ではないハズだから…
「やばっ…幻聴まで聞こえてきちゃったょ…」
期末テストの疲れがまだ取れてないのかなぁ。
「授業中、寝ちゃいなよっ。ノート貸したげるし」
「うん、そーする…」
あたしは、亜子の好意に甘えることにした。
亜子はほんとに気が利いて優しくて…あたしなんかにはもったいないくらいのいい子だよ。
「亜子、ありがと〜」
あたしは亜子に抱きついた。
…――そう。
これまでにヘンなモノが見えても、聞こえても、何だかんだ言って、こんな変哲のない日常の繰り返し。
そんなささやかな日常があたしは好きで…それだけで十分で。
何も変わらないことを疑うこともなく、日々を過ごしてきたんだ――…
（…………）
あたしは寝呆け眼でゆっくりと顔をあげる。
教室には誰もいない。
「えぇっ!?」
飛び起きたあたしはテンパりながら時計を見る。
午前――11：25…？
え、何で誰もいないの？
辺りを見回した。
教室を飛び出し、隣の教室から…順番にぐるりと回っても…
「誰もいない…？」
え、えっと――
あたしは廊下の真ん中で立ち止まって途方に暮れながら考えてみた。
そういえば、何でここに居るんだろう。
朝登校して…授業…数学だったっけ。
白紙になっている記憶を思い興してみる。
――その時あたしは、妙なことに気付いた。
視界が高い。
瞳に映る景色はほとんど同じなのに何かが違う。
ふと、窓ガラスを見る。
そこに映っていたのは、同い年くらいの、眼鏡を掛けた、理性的で凛とした眼差しをした少年――
「………あ」
この顔は――あの子だ。
黒板の横にいた、彼。
でもどうして??あたしが彼になってて、ここは誰も居ない学校で…
でも同じ学校の同じ教室で…
だんだん訳が分からなくなって、頭の中が真っ白になってきた。
そして、再び窓ガラスに映る自分の顔を見た瞬間、あたしは体の自由が効かなくなる。
声も出なくなった。
『………』
あたしが居る彼の体は、無言で鞄から一枚の便箋を取り出す。
大きな手でゆっくりと広げ、何度も目を通した内容に再び視線を走らせる。
流麗で繊細な字の手紙。
短い文章だった。
あたしは彼の目を介して、手紙の内容を覗き込む。
その内容を見たあたしは…ぞくり、と寒気がした。
（ダメよ、そんな…）
記された日付…
その日が何の日か知ってる。
この学校の創立記念日。
そっか、だから誰も居なかったんだ…
そうか、これは…
今ここで起きている〈これ〉は…
これはたぶん、彼の過去の記憶だ――…
何故、こんな事になったのかは分からない。
初めての出来事に、あたしの動悸は収まることなく早鐘を打つ。
そして――彼の目を通して見た真っ白な便箋。