《魔王のウツワ・5》-3
「…ッ…ァ…」
言葉にならない悲鳴を上げながら、七之丞が俺の腕を叩く。仕方なく、解放。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!…こ、殺す気かァ!?」
そのつもりだ。
「ったく…このウブ魔王が…で、話をまとめるとヒメに何かあげて、好感度Upさせて、手込めにしたいが、何あげたらええか分からんと…」
右手を左手で包み込み、ボキボキと骨を鳴らす。
「うん…手込めにしたらあかんな…でも大筋は当たりやろ♪目的はヒメのハートとちゃうか?」
「……本の礼と昨日の謝罪だ…」
だが、七之丞はニヤニヤ笑いを崩そうとしない。
「そうゆーことにしといたるわ♪
ふむ…ヒメが喜ぶもん…何がええかな…」
七之丞は壁にもたれながら、虚空を見上げ、紫煙を吐き出した。
「お前はいつも彼女に何あげているんだ?」
「アクセサリー、宝石、服、バッグ…とかやな」
「高い物ばかりだな…お前、バイトしてんのか?月幾ら稼いでる?」
「こんだけ♪」
七之丞は右手を大きく開いた。今の話を聞く限り、5万ではないだろう…
「鬱輪もやるか?自分ならかなり稼げるで♪
…いろいろと保障はせえへんけど…」
「やめておく…」
どうせ、法律スレスレのいかがわしいバイトだろう…
下手すれば、法律の向こう側の世界の可能性もある…
「自分、結構堅物やから、そうゆーと思たわ。それに、ヒメは宝石欲しがる柄やないからな。てか、自分ヒメの好みしらんのかいな!?」
「…知らん…だから、恥を忍んで頼んでる…」
「…う〜ん…判断材料が少な過ぎるわ…」
七之丞はまた煙を吐いた。煙はゆらゆらと呑気に立ち上ぼる。
──キーンコーン…
お馴染みの鐘の音。
「うん、無理♪まったくもって分からんわ♪」
面倒臭くなり、考えるのをやめた七之丞が短くなった煙草を足で揉み消す。揉み消した吸い殻を人目につかない溝に隠すという隠蔽工作も忘れない。
「でも、ヒメなら自分が選んで買うたもんなら何でも喜ぶと思うで♪ほなな♪」
そう言い残し、七之丞はさっさと帰っていった。
「俺が選んだものか…」
だが…変な物はあげられんし…
「どうしたものか…」
空を見上げた。行く先も定まらぬ雲がゆったりと浮かんでいた。