《魔王のウツワ・5》-2
「…き、昨日のことなら謝るで…」
「…違う」
「ちゃうんか?」
確かに怒っていないわけじゃない。
だが…
「ちょっと聞きたいことがある」
「なんやねん?」
七之丞は箱の縁をトントンと叩いて煙草を取り出した。それを口に咥え、火を着けようとする。
「なあ…お前、妹か姉っているか?」
「はぁ?何でまた…」
七之丞は怪訝そうな顔をした。
「わいは、この頃流行の一人っ子や。まあ、親戚に一人、女がおるけど…何でや?もしかして、紹介してほしいんか?」
「違う」
「そうやろな。ヒメがおるし、その親戚も小6やから、手ぇ出したら犯罪やぞ♪これ以上罪重ねたら、おかん泣くで♪」
「煩い、俺はお前と違って犯罪に手を染めてない。警察に捕まる様なお前とは違う」
「わいかて、まだ"逮捕"されたことは無いわ!」
七之丞は"逮捕"の部分を強めて叫んだ。
「…なら、付き合ってる奴は…」
「そんなんおるならヤンキー兄ちゃんの女なんかに手ぇ出すかい…」
至極当然の答えだ。
「で、何でそないなこと聞くねん?」
そう言ってマッチを擦り、煙草へと火を移そうとした。
「女って何をあげたら喜ぶ?」
七之丞の口がポカンと開いた。咥えていた煙草が落ちる。手の中のマッチが段々と短くなり、そして…
「うわっちッ!」
マッチの火が呆然としていた七之丞の親指と人差し指を焦がした。
「こ、焦げたァ!?わ、わいの指がァ!自分のせいで指焦げたやろがァ!おぉ〜、熱ッ!あたた…あかんわ、骨折れた、治療費ださんかい!」
七之丞は指先を、ふぅふぅ…と冷ましながら言った。
「…何故、火傷で骨が折れる?…お前は何年前のチンピラだ?」
「微妙やな…もうちょいハイテンションのノリ突っ込みを期待しとったんやけど…まあええ、とにかく自分、誰にプレゼントするつもりやねん?」
七之丞は新しい煙草を咥え、もう一本マッチを擦った。今度はちゃんと煙草の先を焦がした。
「ヒメか?…ヒメなんか!?ヒメかいな!!てか、ヒメしかおらへんやろ♪」
「…ち、違う!」
そう言うと、七之丞はまたニヤニヤと笑い…
「ほぉ〜、ならヒメにゆーてええな♪今叫べば、ヒメに聞こえるやろ♪」
七之丞は扉を開き、大きく空気を吸い込んだ。
「ヒ〜メ〜♪鬱輪がなァ〜、他の女に〜、プレ」
「…黙れ」
七之丞の喉元を握り締める。少々機嫌が悪いので手加減が難しいな…