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冬の花火。
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冬の花火。-1

もうすぐあの季節がやってくる。
カレンダーを見ながら僕はため息をついた。
冬の到来は街路樹や街の模様、そして僕の首のマフラーが教えてくれた。
長野の冬は厳しい。 
寒さは暖かさを教えてくれる。
ちょうど別れがその大切さを物語るように。

吐く息も白くなり、僕は窓の外の寂しくなっていく景色をただ眺めていた。 

去年はこんな気持ちでこの季節を迎えなかったのになぁ。 
ため息がまた漏れる。 

大学4年の冬は何もかもが優しく見えた。 

今は緊張感漂う会社の窓から眺める静寂の季節。 

すべてが変わってしまった。 
優しい冬は今年はこなさそうだ。 

去年をボンヤリ振り返る。 
ちょうど瞳には交差点を歩く一組のカップルが映っていた。 

そう、あれは去年の僕らだ。 

秋が一年で一番好きだとアナタは言った。 
落ち着くから。 
天が高いから大好き。 
そううれしそうに話してくれた。 

空を見上げる。 
丸い雲に澄み渡った青空。 
そんな穏やかな秋の昼間のやさしさが好きだってアナタは繰り返す。 

確かにそうだ。
すべてを包み込んでもまだ十分すぎる程の包容力を持つあの空に少し僕は嫉妬した。 
受け入れなくてはいけないもの。 
僕が受け入れなくてはと願うもの願わないものすべてを好きになれますように。 
願い事を込めて瞬いた。 
ちょうどヒコーキ雲が真っ青な空に境界線を引いていた。 

穏やかな午後。 

夕方は足早にやってきた。街の匂いが凛としていく。 
この香りが好きなの。 
アナタは鼻をクンクンしながらかわいく言う。 

僕はわかったふりをして相づちをうつ。 
本当はアナタばかり見ていて匂いなんてちっとも意識できなかったから。 

今ならわかる。 
この静寂の匂い。 
孤独なこの香り。 
そして凛として一人でも決して屈しない感じ。 

弱かった僕には到底わからない部類のものだった。 
カレンダーを見る。

12月13日にハナマル。

冬の花火大会がある。 

夏の花火がアナタは苦手だった。 
露骨に生を主張するようなあの豪快さも炸裂音も人混みも…。 

冬の花火は去年初めてみた。 
忘れられない冬夜空に咲く花びら。 

夏のそれとは違って、 
ただ静寂を意識させるような、そこに咲くのだけど散ることを念頭に入れているような刹那の花。 

刹那の花かぁ。 

これは去年のアナタの言葉だった。 


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