幻を想う、その行方
〜黒の世界〜-1
ここは人里を遠く離れた峡谷。
辺りは深い霧に包まれ、視界はほとんど定かではない。
一人の男がその中を彷徨う。
一体どれだけの景色を眺めてきただろうか。
どれだけの民族に出会ってきただろうか。
身体の疲労は既に極限に達しているというのに、彼の両脚は休む事なく一定のリズムを大地に刻み続ける。
その瞳には蒼い炎が、一心不乱の意志が、確かに宿されていた。
始まりは少年との出会い。
始まりは生との出会い。
始まりは宇宙との出会い。
その偶然が狩人に少年の心を与えた。
彼もまた、ファンタジーを欲したのだ。
「もう…さすがに」
彼は一瞬、脚が棒のように突っ張ったかと思うと、前方に倒れ込んだ。
やはり自分はもうこれ以上前には進めないのか。
そう感じる自分に情けなさや悔しさというよりも寂しさが込み上げてくる。
だが、そのまま目を閉じる事はなかった。
蒼い炎がそれを許さない。
勿論それは彼自身の意志となって再び彼を立ち上がらせる。
ゆっくりと頭を起こした時、消えかけていた果てしない空が今度は太陽と月を抱いて現れた。
辺りを取り巻いていた霧は無くなったのだ。
代わりに視界に飛び込んできたのは洞窟の入口だった。
「これは…」
彼は全身が小刻みに震えるのを感じた。
「ひょっとしたらこの中にあるかもしれない」
中は奥深くまで暗闇に閉ざされているが、彼には関係無い。
いや、むしろ彼の探求心をより一層引き込んでいた。
さながら背水の陣、意を決して洞窟に足を踏み入れた。
さらに躊躇する事なく一歩ずつ奥へと進んだ。
とは言ってもここは巨大な峡谷に位置する洞窟の中。人が居るはずもなく出口があるかも分からない。