続・高崎竜彦の悩み 〜降り懸かる災厄〜-3
「おはようございます、オーナー」
にっこり微笑んだ待山さんが、俺に追随する。
よし、ナイスフォロー待山さん。
「ん、あぁ……おはよう、二人共」
とりあえず、口調から不機嫌さは伺えないが……。
「オーナー……昨日の特集記事、ご覧になりました?」
ぶわぁ!
いきなり核心に触れるでねぇ!!
思わず取り乱して珍妙な言葉使いをしちまったが、オーナーは……。
「うむ。見たぞ」
平静でやんの。
暴れ狂って厨房しっちゃかめっちゃかにして、今日のランチタイムは無理……いや、厨房の補修が済むまでしばらく休業かと思ったが……うぅん、これじゃオーナーがゴ○ラか何かみたいに聞こえるな。
○に入るのは『リ』じゃないぞ。念のため。
いや、アメリカでも映画化された日本製某爬虫類系怪獣について言及してる場合じゃない。
あれは核を内蔵してるといえばいいのか内臓にしてるといえばいいのか……だから違うって!
いかん、中途半端な知識を披露してる場合じゃないんだってば!
「俺の方は三面に押し込まれてたが、どっちにしろ店の宣伝はできたんだ。結構結構」
そ、そぉでスカ。
ってか従業員全員がびびってたの、意味ナシ?
たはぁ……損した。
「高崎。代わりにお前の給料、今後半額減」
肩の力が抜けた瞬間、オーナーがそんな事をぶっこいた。
……ナヌ?
「俺より目立った罰」
ヲイこら。
「オーナー……」
俺が憮然とした声を出すと、オーナーは(たぶん)俺を見た。
「嫌か?」
「嫌に決まってるでしょう」
オーナーは俺の腕を高く買ってくれていて、収入はまあそこそこ……同格のレストランでパティシエやってる同年代の奴よりも上だろう。
だからといって半額減て……冗談にしちゃあキツ過ぎぃ〜……?
「オーナー?」
待山さんが、首をかしげる。
「うむ。冗談だ」
分かりにく過ぎぢゃあああああっっ!!
いや……待山さんが言ったから、撤回しただけかも知れないな。
だって、オーナーだしぃ。
いかん、いじけてる場合じゃない。
「オーナー……あの、本当にごめんなさい」
待山さんが頭を下げると、オーナーは肩をそびやかした。
「気にするな。以上」
あぁ……助かった。
とりあえず厨房の破壊は免れたし、ランチタイムの営業にも支障はないな。
「それじゃあ、西崎さんにセラーを任せっ放しにしちゃってますし……失礼します」
言って待山さんが、踵を返す。
「あ、送ってきます」
俺は待山さんと一緒に、厨房を出た。
ワインセラーに向かって歩きながら、俺は礼を言う。
「サンキュ、待山さん」
俺の言葉に待山さんは、左眉を歪めて笑った。
「オーナーが暴れたら、大変ですもの。気になさらないで下さい」
あぁ、ほんとにいい子だなぁ。
こんな子を、俺は自分の都合で待たせてる訳で……あぁ情けない。
「待山さん」
俺は待山さんの肩に手をかけた。
一瞬。
「!」
かすめるようなキスに、待山さんがびくりと震える。
「……職場じゃ、駄目ですよ」
口調が咎めていませんよ、お嬢さん。
「……あ。そういえば君のお友達の釈明を聞くために、ちょっと会う事にしたから」
そう言った途端、待山さんは眉を曇らせた。
「私……同席した方がいいです?」
「いや、大丈夫。たぶん、すぐ済む話になるだろうし」
俺達がオーナーのご機嫌伺いしなけりゃならん理由を作ってくれた張本人がどんな言い訳してくれるか、楽しみだなぁ。
えぇおい?