赤い鈴〜一般的解釈より〜-1
カラン、コロン。
下駄が小さな澄んだ音色をたてる夕暮れ。
僕は君と一緒に寺からの帰り道を歩んでいた。
特に変わらない常の日課。
夕日が全てを茜色に染め上げる、君がもっとも好きな時間。
ただ、今日の僕は胸の中に非日常を秘めている。
他愛ない会話。
いつもの曲がり角。
程なくして迎える、時計屋前の分かれ道。
「では、また今度。送っていただいてありがとうございました」
はにかんで囁く君の笑顔。
いつも通りの別れの挨拶。
だけど、今日は……
すっと手を伸ばし、振り袖を掴んだ。
驚いている君の顔。
その目をしっかり見据えて言葉を紡ぐ。
「君のことが好きなんだ」
君の瞳が丸くなり、
微かに揺れて動きが止まった。
思いをハッキリ伝えようともう一歩近づき、動揺を抑えるよう一度深く呼吸する。
彼女の顔が赤みをおびはじめたのが見て取れた。
「僕は……」
パッッッポー!!!!!
ドキーーン!!Σ
「うわっ!?」
心臓が跳ね上がった。
見れば、時計屋の鳩時計がけたたましい音をたてながら鳴いている。
この店の主人、よっぽど耳が悪いんじゃなかろうか?音がでかすぎる……!
パッポーパッポーと全てをぶち壊すかのように鳴く鳩を殺意にも似た思いで睨みながら、どんどん悲しくなって気持ちが冷えていくのを感じた。
「ごめんね、変なこと言って。じゃあ、また!」
手を離し、逃げるためにくるりと踵を返す。
影法師が逃げ道を示すかのように彼方まで長く伸びた。
導かれるままに足を踏み出す。
そうしてどうなるわけでもないことは分かっていたが、それでもこれ以上この場にいることは出来そうになかったのだ。