赤い鈴〜一般的解釈より〜-9
嫌だ、あれは見てはいけない。
細胞が叫ぶような悪寒がわき上がる。
受け取りたくなくて、首を振って固辞したが、母はこちらににじり寄ってきた。
「貴方はどうせ、見なくてはならないのです!」
母が目前で紙をばっと広げた。
否応なしに文字が目に入る。
電報の、カタカナばかりの文字の羅列には――
「……カノチ、デ、センシサレタシ…イタイ、カイシュウハ…」
震える声で読み上げながら、身体から血の気が引いていくのを感じた。
「そう、彼は亡くなってしまったの。
だから――」
後の言葉は聞こえない。
ただ、目の前の文字だけが必要以上にぐるぐると頭の中を駆けめぐっていく。
死んだ……死んだ……しんだ……シンダ、シ……
モウ、コノヨニカレハイナイ
ドコヲサガシテモイナイ
カエッテコナイ
ヤクソク、シタノニナ……
身体の中にヒビが入ったのが分かった。
身がさけて血が流れるとか、そんなものじゃなくて、もっとはっきりとした「崩壊」の感覚。
硝子が割れるかのように、甲高い、それでいて透明な亀裂が一カ所から広がり
全てが 砕け散った。
* * *
「今朝方、日本へ帰還する許可が下りた。二、三日後には日本行きの船がくる。皆、良く生き延びてくれた。俺は嬉しい」
上官からの指令を笑顔で報告できる日なんて今までにあっただろうか?
ざわめきは瞬時に広がり、部下達も皆喜び混じりの安堵の表情を浮かべた。
「やっと国に帰れる」
そんな囁きが漏れる。
「つきましては」
と俺は続けた。
きょとんと部下の目がこちらに向く。