赤い鈴〜一般的解釈より〜-8
あれ?何でこんな物書いたんだっけ?
……ま、いいや。
紙を掴み、ビリビリに引き裂く。
ちぎって、丸めて、屑籠に放り込んだ。
「あの人はここにいるんだもの。必要ないわよね」
机の上の金魚鉢に映る自分が笑んでいる。
返事を返すかのように、金魚がぱちゃりと尻尾で小さな波音をたてた。
その夜。
「……したか?」
「……だめで……嬢様……狂…」
まどろみの中、隣の部屋から小さな囁き声が聞こえてきた。
母様と侍女の声……かな?よく聞き取れない。
「仕…ない、作……報告…」
「大丈……か?」
「諦…………かも」
うつらうつらと意識が揺れる中を僅かに音が抜けていくが、意味も理解できない。
まぁ、いいか。二人とも要らないもの。
意識を保つことを諦めて、まどろみの世界へと身体を解放した。
数日後。
しとしとと優しい雨の降る日だった。
私はこんな静かな雨は好きだ。
見慣れた景色の色が変わっていく様は飽きることがないし、何よりも音が私の全てを包み込んでくれるような気がする。
よく音が聞こえるように渡り廊下に座り、目を閉じた。
……っう、うぅ、…ぐすっ…
そこへ、聞き慣れない音が響いてきた。
音源を探し、近寄っていけば普段はほとんど使われることのない客人用の部屋の中からその声は流れてくる。
いつも気丈な母が泣いていた。
怪訝に、そしてやはり心配に思い、早足で近づく。
「どうかなさったのですか?身体の具合でも……?」
「いいえ、これを見なさい…!」
震える手が一枚の紙を手渡そうとした。