赤い鈴〜一般的解釈より〜-6
「聞こえません、聞こえません…聞きたくもありません……」
譫言のように繰りかえし、母が出て行くのを待つ。
だが、母もしつこかった。
冷酷に言葉が紡がれる。
「あれはもう、この世の人ではないのです」
瞬間、頭に血が上った。
「だから……
「嘘です!!出て行って下さい!信じられません、母様は嘘つきです!そうやってただあの人のことを忘れさせてしまいたいだけなのでしょう!?
『死んだ、死んだ』とそればかり申しますけれども、正式な戦死悲報も届いていないではありませんか!?」
母は言葉に詰まったようだ。
反抗した私をきっと睨むようにして足早に部屋を出て行く。
荒い息を整えていると、入れ違いのように私の世話役の侍女が入ってきた。
「派手に喧嘩なさいましたね。何年ぶりのことでしょうか?」
一つため息をつく。
「分かりません。初めてかもしれません」
「ご自分の意見が言えるようになったのは良きことと思います。でも、奥様の言うこともわからなくは……」
治まりかけていた怒りが再び蘇った。
「……っ!お前まで、お前までそのようなことを言うのですか!?あの人は死んでなどいません!!
さぁ出て行って!貴方も出ておゆきなさい!」
「ですが、お嬢様」
「さぁ早く!私を独りにしなさい!!」
侍女が立ち去った部屋で布団を被って闇を作った。
誰にも囚われない私だけの空間。
その中では、私はゆっくりとあの人の胸の中に寄り添うことが出来た。
あの人が私の瞳を見つめ
あの人が私の髪を撫で
あの人が私の唇にそっと柔らかい感触をのせ……
そうして何日も過ぎた。
空想の出来事のはずだった。
絵空事の出来事のはずだった。
だが、いつしか、貴方は常に私に寄り添ってくれるようになった。