赤い鈴〜一般的解釈より〜-5
僕が死ねないのは、君との最後の思い出が泣いているところだったからだ。
君はきっと僕がいなくてもどうにかやってくれているのだろう。
約束したのだから。
でも、今死んだら、きっともっと泣かせてしまうね。
目を開いた。
共に転がった銃を持ち、立ち上がる。
「どけ」
部下達が驚愕の目で見つめてくる中、自分を狙った奴めがけて照準を定めた。
出血のせいか頭が少しくらくらする。
だが、不思議なほど外すとは思わなかった。
「殺った」と思っていた奴が撃ってくるとは思わなかったのだろうか。
一撃で首を打ち抜くと、敵兵は戦意を喪失したらしく、散り散りになって逃げていった。
敵兵がいなくなったのを見届けて再び目を閉じ、ぐらりと倒れ込む。
側にいた誰かが慌てて支えるが、そのままずるずると地に滑り落ちた。
「速く!処置班はまだか!?」
「隊長!!……っ、うぅ……!」
あぁ、今度こそ視えなくなってきたな。
視界が周囲から白んでいく。
寝転がった目に最後に飛び込んできたのは夕焼けの橙だった。
雲一つなく、カラスが何ごとか鳴き交わしながらどこかへ飛び去っていく橙赤色。
空に敬礼する。
「ばか、俺を勝手に殺すなよ」
部下とすぐ近くにいるであろう死神に悪態をつきながら。
* * *
「あの人の部隊、かなりの激戦地に送られたらしくて生存者の確認作業もはかどらない程だそうよ」
母は静かに、しかしはっきりと遠慮なく私に告げた。
「いいえ。あの人は生きています。『帰ってくる』と約束したから」
「約束なんてどうなるかわからないことくらい理解っているのでしょう?」
「いいえ、いいえ、生きています、生きています…!」
「あの人のことは気の毒に思います。
でも、貴方の為、引いては店の者達の為に言っているのです。
世継ぎがいない、そして産まれないというのはどういうことかお分かりなのですか?
貴方はたった一人の、お父様の血を継いでいる者なのですよ」
耳を塞ぎ、目も塞ぐ。
何も侵入してこないように。