赤い鈴〜一般的解釈より〜-2
ぎゅ。
背中の布を握られる。
思わず振り向けば、普段下に向きがちな視線を泣きそうに歪め、必死な様子で僕を見上げる君の姿があった。
今だ時計が鳴り響く中、懸命に言葉が紡がれる。
『わ た し も あ な た が す き で す』
小さな彼女の声はほとんど聞き取れなかったが、唇がそう動いた……気がした。
聞き返そうかと悩む間に、そっと彼女が指と指を絡ませてくる。
白桃のような頬を、夕日のあたっていないところまで赤く染めあげて。
「今日は、もうちょっとだけ、このままでいたいです」
儚ささえ感じられる声が今度は確かに届き、
「ああ……」
胸の中で、静かに響いた。
* * *
それから彼女と僕は、二年寝食を共に過ごす。
大商家の一人娘で、父君の忘れ形見である彼女との間に子供が出来ないのを、
「婿君の手腕が」
「いやいや、嬢様は実は石女で」
などという好き者達はいたが、それなりに幸せに暮らしていた。
日本が戦争を始める、その時までは。
妻は郵便の人に怯えるようになった。
表向きは普段通りに振る舞ってはいたが、無理をしているのがはっきりと見て取れる。
いじらしく、また不憫に思い毎晩掻き抱けば、僅かに安心したように微笑んで眠りについていくのだが、朝になればまた緊張した面持ちで日々を過ごしていくのだった。
しかし、運命というのは残酷な物で。
「おめでとうございます」
徴兵の役人から無機質な声と共に差し出された赤い紙。
挨拶を返して受け取りながら、心の中が虚ろになっていくのを感じた。
冷たい汗が流れ、内臓の奥底まで冷え切って何かが迫り上がってくる。