赤い鈴〜一般的解釈より〜-13
「私ども店に恩のある者は、旦那さまの戦死報告が届かないことだけを、僅かな励みとして日々を過ごして参りました。
『旦那さまさえ帰ってくれば全て元通りになる』と口々に申しておりました。
ですが、お嬢様はあれ程待ち焦がれていた旦那さまにお会いになっても、もう分からないのですね。
……なんと、おいたわしい……」
侍女は、何か目に見えないものを追い掛けて手をのばしている妻に目をやると、とうとう糸が切れたかのようにへたりこんでしまった。
もはや気力も湧かないのか、涙も零れるがままになっている。
「よく、今まで頑張ってくれましたね」
出来るだけ優しく響くよう言葉をかけ、肩を叩いた。
そうして、抱き抱えたままの妻をこちらに向かせ、微笑みかける。
「約束通り待っていてくれたんだね。
けど、少しだけ疲れてしまったんだね。
僕は、傍にいるよ。
今度こそ幻じゃなく、傍にいるよ。
もう、いいよ。
もう、苦しませたりなんか、しないから」
そっと抱き締める。
へし折ることなど赤子の手を捻るくらい容易い、と言わんばかりのガリガリの身体だ。
でも、血の通っている身体はちゃんと暖かかった。
彼女もまた、生き残ったのだ。
僕がいることを、君はやっぱり気付いてなどいないのだろう。
でも、どういうわけか君は歌うのを止めて無理矢理腕を振りほどき、
指と指をそっと絡ませてくれた。
end