赤い鈴〜一般的解釈より〜-12
ふらふらと歩き回る彼女が硝子帯から離れた。
急いで抱き寄せ、明るいところに引きずるように連れてくる。
触れた素肌がぬるりとした。
もう鼻が適応し始めていたが、臭いの発生源は彼女だったのだ。
素足のままガラス上を歩いていたお陰で、足元はまた新たな赤い涙を流している。
そして彼女は、僕が視界に確実に入っているのに全く反応を返さないのだ。
正直、ぞっとした。
「誰ですか!?お嬢様に何を!?」
背後で警戒の声が響く。
びくりと振り返れば、戸口に人影があった。
逆光で良く見えないが、この声は確か彼女の世話係をしていた子のものだ。
だが、あちらは僕が誰だか分かっていないらしい。
「誰か!お嬢様に乱暴をするものが!!」
マズイ。
「待って!僕だ!分からないかな?君は確か番台にいた子だろう!?」
予想通りなら、僕が戦地に行く前は確かいつもそこにいた。
近づいて、確信する。
少し痩せてやつれたような印象を受けるが、見紛うはずもない。
「!……まさか、旦那さま?」
侍女がはっと口元を押さえた。
「よくぞ、ご無事で」
声が涙でにじんでいる。
会話が成立する人と会えて少しほっとした。
「あぁお願いだ、何が起こったのか、聞かせてくれ。これはいったい…?」
「……全ては、旦那さまが戦地に向かわれた事が発端なのです」
彼女は顔をくしゃりと歪め、本当に辛そうな顔を浮かべながらぽつりぽつりと語り始めた。
* * *
「……奥様は、自責の念からか、深い病にかかっておいでです。
お嬢様も、名誉の為にごく一部にしかその姿を見せてはならないとして、このようなお部屋にいらっしゃるのです」
拭っても拭っても落ちてくる涙をまた拭き取りながら、侍女は続けた。